末摘花 ヒカルが地球にいたころ……⑤ 驚愕のヒロイン

※2節目以降ネタバレ

ラノベ的にはかなりレアケース

この表紙を見たときの衝撃をどう表現したものだろうか。

ご存知の通り、表紙がキャラの絵でもなければ挿絵もないラノベというのは、稀ではあれど存在する。しかし顔が意図的に「隠されている」、というのは……仮面であればないではないが、ちょっと思い浮かばない。

正直、大丈夫なのかと危惧していたが、読み終わってみれば、これはいい試みだったと思う。このご時勢であればこの表紙は相当目に付くし、加えて内容に対する強烈な引きにもなっている。何より、私は「これをどう着地させるか?」自体がミステリ要素になっているように感じたからだ。

少し唐突だが、私は覆面キャラというと『るろ剣』の外印を思い出す。なぜかというと、その外印という覆面キャラを書いたときに、散々焦らしたのに中身がただの爺さんで、作者が猛バッシングを食らい「覆面キャラを書くときは、美人かイケメンか、そうでない時はよほどワケアリ顔だけ、という教訓が身にしみた」(表現はあやふや)と述べていたからだ。

そんな事前知識もあったため、私は今回はどうするだろう?扉絵にもないから、途中の挿絵で公開するのか?とか、もしこのままないとしたらどう進む?とか、色々考えながら読めて楽しめた。

惜しむらくは、もしこれにインパクトを受けたとして、今巻からの参入は難しいことだろうか。

あとその巻でターゲットとなるヒロインとの絡みだけみるには、救済したキャラが増えすぎて修羅場が多発するが、相変わらずいいシリーズだと思う。


・独特に動機付けられたヒロインの救済

ヒロインをガンガン救済していくのは、それ自体で爽快な話にはなるが、一体なぜそんなことをするのか?という動機が結構重要だと考えている。

最終的には相手を知れば、その境遇から救済を改めて決意することになるものの、その始まり方で話の印象がかなり違うからだ。

インデックスの上条さんは良く分からない感情的(倫理的)な情熱に掻き立てられて救ってしまうし、カンピオーネはかかる火の粉を振り払ってたらトンデモないハーレムが形成される。

化物語阿良々木暦に到っては「なんの理由もなく命を差し出しても助ける」という属性を意図的に持たされている。Fate/staynightはもはやその動機自体を問う物語だ。

このように、どういった動機を持つか?というのは作品の性格を大きく決定する要素になっていると考えている。

またはこの点が煮詰まっていないと(あえて煮詰めていないと)『デート・ア・ライブ』のような、ふわっとした読み心地の作品になる。いいか悪いかはともかく。

その点、この『ヒカルが地球にいたころ』は、救う根本的な理由は「死んだ友人の無念を晴らすため」だ。幽霊を成仏させる話はそう珍しくはないが、それを女の子の救済につなげるところが一枚抜けている。

積極的に女の子に関わっていく自然な動機付けになるし、どうみてもタラシにしか思えない行動に正当性がでる。

加えて是光のような似合わないキャラが救済していくというコミカルさも出せるし、ハーレムを作る要素に必須の「主人公の頭おかしいレベルの鈍感さ」も、是光の凶悪な目つきと、それが原因となる経歴からすれば、自然に感じる。

元々鈍感さには、そもそも人の気持ちに鈍感なケースと、自己評価が低すぎて相手が自分に好意を持つはずがないと思い込むケースがあるが、どうやって後者を自然に演出するかという意味では、この主人公はかなり優れていると思う。


・正妻がいないと不安定になる

主人公がヒロインを片っ端から救済するせいで、どんどん嫁候補が増えていくパターンを意図的に繰り返した結果、もはや今巻の内容の半分は修羅場と言っていいほどだ。

しかも夕雨→脱落、月夜子→一歩退く、紫織子→さすがに無理、で葵か式部かという所であったのに、今巻で更なる飛躍が見られた。まさにハーレムというにふさわしい。

個人的にはもう正妻がいて、ヒロインを救っても即行で失恋するパターンが安定していて楽なので、この形式が若干辛くはある。

本作に関しては、最初メがないかに見えた式部さんの意外な突破力で頭ひとつ抜けている状況だとは思う。しかし明確に是光を救済していないだけに、なんとなはなしに不安が残る。もし夕雨が帰還したら戦争が起きる。

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ためしに自分で作った要素表でも使ってみましょうか。

友情      ★★★☆
無双系     ★☆
ハーレム(能動)★★★☆
ミステリ    ★★★

この場合、星が少ないのは点数が低い(減点)のではなく、その要素での面白みを持つがその要素で感じる面白さはこの程度、ということで、加点方式でみてください。ないよりはあった方がいいです。

どれがどのくらいになるとこれくらいの面白さ、というのはまだ自分でもはっきりしていません……いつもどおり気長にやります。