カンピオーネ!ⅩⅢ 巧みな枠組

カンピオーネ! 13 南洋の姫神 (スーパーダッシュ文庫)

カンピオーネ! 13 南洋の姫神 (スーパーダッシュ文庫)

※3節目ネタバレ

・ある意味究極形

いやあ、これはすごいシリーズですよ。これだけ自己拡大欲求をストレートに満たす物語はそうないんじゃないでしょうか。

カンピオーネ=チャンピオン=魔王=主人公という事で、世界で最強クラスに強いですし、ほぼ全ての人間から敬意を持ってかしずかれています。ハーレム拡大は留まるところを知りません。それでいて主人公はまあまあ常識的で、女子に対して基本的にはヘタレなので、等身大の人間としてきちんと感情移入することができます(だいたいは……)。非常にバランス感覚のある設定だと思います。

しかしこの話の本当にすごいところは、それをきちんと納得できる範疇に収めていることです。単純に上記の設定だったら考えつくことではあるんですが、普通にやったらリアリティから限りなく遠ざかり、ただの妄想になってしまいます。

加えて神話の知識を提供する知的スリルもあります。今巻はこの点がイマイチでしたが……。

そういう点もひっくるめてバランスがいいと言ってもよさそうです。あまりのバランス感覚に主観評価の星を増量しました。リアリティを追求する人や成長を求める人には向いていませんが、そうでなければ一読の価値はあるんじゃないでしょうか。


・ぬるま湯のハーレム空間を作り出す、一人を選ばなければならないという「圧力」の不在

この小説は独特のハーレムを形成しています。「主人公が王であるがゆえに、妾が何人いようと構わない」みたいな認識が周囲に共通で築かれていることです。

ゆえに一人を選ばなければならないという圧力があまり発生していません。まあ正妻を巡る鞘当てがないではないですが、なんだかんだみんな自分のポジションを見つけて収まっていきそうな気配を見せています。

この世界的に見ても普通はそんなこと許されない、しかし絶対的な力を持つ王だから許される。主人公は基本的にヘタレだから選べないのに、いざとなるとトンデモないタラシの能力を発揮して、挙句に「俺が全員まとめて面倒見てやるぜヒャッハー!」状態になるのでハーレムが違和感なく増大していくという。

ハーレムとしては理想的な状況ですね!


・神話の内容はバトルとのリンクが大事?

今巻なんとなくバトルが惜しいなあと思ったのは多分ここじゃないかと思います。

確かに今巻では、一行はいつもの力技ではなく、比較的知恵を絞って戦うことになります。そのため、一体どんな手を使って戦うんだ?というバトル自体のスリルは結構あります。

それはそれで確かに面白いです。しかし一方、相手の権能を剣で切り裂くチャンスが非常に少なくて、どうしてそういう権能を持つのかっていう部分がほとんどスルーされていたのが惜しく感じました。ここを謎解きしてくれないと、せっかく神話から敵を引っ張り出している意味が薄いですから。

男をたぶらかすのはそうだと思うのですが、太陽神の娘だからって火の女神になるのかな?とか。あんまりキルケーが暁だっていう話は聞いたことがありませんし……暁ってエオスがいるじゃん、なんでキルケーなの、とか(いや、太陽だけ見てもヘリオスアポロンがいるじゃんといえば、そうなんですが)。鳥を使うのはキルケーがギリシャ語で鷹(よく知らない)だからで合ってるの?じゃあ蛇はどっから出てきたんだ?などなど。

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まあたまにはこういう趣もアリかなとは思います。神話を絡めていくところを、私が思っているほど読者が求めてないことも考えられますし。

基本的に安定感のあるシリーズだと思います。<評価>
ベタ甘★★★
無双系★★★★
ハーレム(能動)★★★☆
知識(神話)★★★☆