雪の追憶 −フェンネル大陸真勇伝− 高里椎奈


フェンネル大陸シリーズの最新刊。

グールの島を出てさらに旅は続きますが、今巻ではついにサチの過去が明らかに!

しかし相変わらずフェンという人は良く分かりません…「感情や認識が無秩序に散乱する」なんて言われても何がなんだか。

むしろ記述的には「生来の変わり者」の方が無難で、その後の経験から単に自分の感情や認識を自分で上手く把握できない状態になっている、という理解で合っているのかそうでないのか…。

そんな摩訶不思議な主人公のおかげで(?)今巻も面白いですね。自分は骨太で王道で代表的なハードファンタジーなどは良く分からないしあまり読んだことがない(誰かに紹介して欲しい…)のですが、いつもながらこのシリーズは国の政治形態、パワーバランスなどマクロな話から、衣食住や流通、文化などよく書けていて、かなりしっかりしてる方なのではないでしょうか。

世界がある、というところまでは行きませんが、世界に浸っていることは出来るくらい、というか。主観的な見方ですが…

その割には、端的な描写でスピード感ある読み心地で、物語がどんどん動いていくのも魅力かなと。

台詞回しや説明が絶妙で、よく読んでいれば分かってより楽しいというような所がしばしばあって、再読の楽しさもあります。そういう所はおがきちかさんなんかと似ているかも?

けどやはりこの話の魅力は、主人公が英雄なことじゃないかと。誰もが仕方ないとあきらめてしまうことに立ち向かい、ひっくり返す。それも一騎当千というような話ではなく、その行動と意思で周りを感化していく。

ある意味では出来すぎと言えなくもないですが、こういう話の方が物語がダイナミックになって個人的には好きです。

あまり話題になってるのを聞かない(自分の情報収集能力の低さかもしれませんが…)ですが、大好きなシリーズです。

少し文章が独特で読みづらいという向きが自分の周りでありましたが、慣れてくれば逆に速さとリズムがあって読みやすくなるようです。

もう既に10巻まで来ていて、追いつくのは多少大変ですが…ファンタジー好きなライトノベラーにはぜひお勧めしたいです。

とりあえず今巻は、

国全体のために個人を犠牲にしていいのか?という話で、当然フェンは反対して国と対立することに。

犠牲のされ方が本当に生贄のようである挙句に、一般人は当然のようにその悲惨な裏を知らないので、英雄とあがめられることに。

そして、サチの「英雄の弟を探す」という言葉の意味がようやく。スノウがどのくらい英雄だったかというのはあまり描写されませんでしたが…

この人の話は、最初から考えてあったんだろうなという一貫性があるので、内容が後付や矛盾なく繋がり読んでいて気持ちいいですね。

最後のテオの「なぜ神子を廃止する?」は、勢いで読んでたので確かに盲点を突かれました。