Baby Steps 12 勝木光 珠玉の「テニス」漫画

もう熱すぎる12巻。

この漫画が素晴らしいのは、何といってもテニスがあまりに良く書けている点。

かつて自分がある程度真面目にテニスをやったことがあるから分かる…これは本当にすごい。

まぁ他にテニス漫画なんて、『happy!』(途中で投げてる)と『テニスの王子様』(途中でやめた)くらいしか知らないけど、この辺と比べるといかにテニスの描写が図抜けてるか分かる。

実のところ、その2作品には怒りすら覚える所があって…。なんか、あまりにもテニスが適当で。

いや別にその2作品自体を否定するわけではないのだけど。テニスが本質じゃなくて、他に描きたいことがあるんだろうなって頭では分かってる。

けど、やはり思ってしまう。特に『Happy!』とかは、どうしてもう少しまともにテニスの描写ができないの?と。そんなんだったらテニスを題材にする必要ないよね?という。

テニスは精神力が重要な世界だ、とか言うんだったらさ、じゃあ他のスポーツはメンタル関係ないわけ?とか。

これらの漫画に対する批判としては的外れだろうし、自分がマイノリティだし悪いのは分かってるんだけど、そう思ってしまうんだから仕方がない。

まぁその辺の作品をけなしたいわけではないので話を戻そう…。

その点ベイビーステップは、もうこれ以上ないくらいばっちりテニスが描けていると思う。まぁプロレベルの人から見るとまた違う感想が出るのかもしれないが…。

戦略から、理論、打ち方、試合の描写その他何をとっても非難のしようがない。まぁ、81分の1とか流石に行きすぎ感はあるけど、なにせ主人公の唯一といっていい武器だもの…一応論理的だし、許される範囲じゃないかな。

いやこれ読むだけでテニスやってる人は20%増しくらいで強くなれるんじゃないかな…一流の人はそりゃ無理だろうけど。ブラッド・ギルバードの書いた『読めばテニスが強くなる』と同じかそれ以上にためになると思う。

それくらい、テニスが良く描けていると思う。心の底から感心してしまう。

強いて言えばエーちゃんの成長が、作品内でもたびたび突っ込まれているけど異常に速すぎるけれども。

一つ一つ積み重ねていくのは分かるんだけど、流石にその上達スピードはありえないでしょう、と。

けど最近思ったのは、この漫画はテニスやってない人でも楽しめなきゃいけないんだなということ。

例えばエーちゃんが小学校に上がる前くらいにテニスを始めて、着々と上手くなっていったとする。

そういう理由付けがあれば、テニスやってる人はその実力に納得するだろうけど、やってない人はその分エーちゃんはやっぱり特別なんだな…という印象が出てしまって、身近に感じられないだろうし、なによりそんなにじっくり成長していっては、読み物として面白みに欠けるだろうと思う。

それにテニス自体の面白さを描写するためには、何も知らない一から始めて積み重ねていかないと、一般人の人はついて来れない。

そのためには主人公が1からスタートする必要がある。なら、読者的には一番イメージしやすいであろう高校生からスタートするのも妥当な話。どんどん成長していくし、上手くなる楽しさもちゃんと描けているから、必殺技の応酬なんかにならなくても面白い。

だから、上手くなるペースがちょっと速すぎるのはまぁ仕方のないことだし、理由付けだってかなり頑張ってるから、「もしかしたら…」と思えなくはない。

今巻の宮川君との試合なんて、テニス知らない人が今までの既巻を読まないで読んだらさっぱり分からないんじゃないかと思うけど、この試合、分かれば震えるほど面白いはず。ストーリーとして積み重なったものが試合に集約されていくのも見事だし、本当にでたらめな面白さだと思う。

とにかく、テニスをやっていてもやっていなくても面白いなんて、漫画でやれること自体が既に奇跡に近いんじゃないかと。漫画家とスポーツってそうそう上手く同居し得ないんじゃないかと思うし。それをここまで上手く描けるなんて…

個人的にはもう珠玉と言うよりは至高と言ってさえいいんじゃないかと思うけど、そんなに沢山知ってるわけでもないのに大層なことは言えないのだった。