文学少女と恋する挿話集3 野村美月

エピソード3巻。

どちらかと言うとコミカルな印象の強かった(気がする…)挿話集ですが、今回はシリアス分がだいぶ多め。

竹田と毬谷の話がメインかな…竹田の話のためだけでも読んどいたほうがいいと思う。毬谷のほうは読んでて辛いが、この辛さもまた文学少女シリーズ…とか言ってみる。


バンビちゃんの話は面白かったな…

クラスメートなんて馬鹿ばっかりだと思ってドロップアウトして、外で「本物の」仲間とつるんで遊ぶ日々。

だけど、その仲間にはめられて売春させられそうになるという。

まぁ結局、他人をろくに見もしないで見下して、自分を見てほしいなんて自意識過剰なナルチシズムに陥ってる人間が、そんな理想的な人間関係を築けるわけがなく、だまされて使い捨てられるのがオチだよねって話なのかと思いきや。

それは本心ではなくて、学校でドロップアウトしたのが先で、そんな自分を支えるために、周りは馬鹿だ、外の人たちはいい人たち、という幻想を信じなきゃならなかったという。たとえ外の人たちは、自分を利用しようとしているだけに見えても。

先生なんて、学校なんて、友達なんて信じられない…全部嘘だ!と言うバンビちゃん…なんて繊細で聡い子。人間関係なんて全部幻想という意味では正しいし。

けどここで千愛が「でも、うそでも本当のふりをしていたら、いつかホンモノになるかもしれないよ」という重要な気づきを与えるのだけど、ある意味ドロップアウトしてる千愛が言うと重みが違う…。ああ、この人はこうやって頑張って生きてんだなという。

けどそれは別に誰にでも言えることで、人間関係なんてどれ一つとして確固たるものなんてなくて、互いに努力しあって支えていくものなんだ、と言う意味では通ずるところはあるんじゃないかなぁ。

しかしこの子、聡いのもそうだけど実にタフである。クラスで挨拶して無視されたりしたら俺なんか立ち直れないぜ…それをめげずにずっと続けるとか。大物だ。

ティファニーちゃんの話も似たところあるな…バンビちゃんに「一人でも平気なんだな、強いんだ」という幻想を持ったティファニーちゃん、しかし実際のところ全然平気じゃなくてドロップアウト寸前だったわけで。

人って結局どう頑張っても他人のことなんて分からない。けど話せば分かることもあるかもしれない。話した内容が真実かなんて確かめることは出来ないわけだけど(話している本人は本当のつもりでも、自分にすら嘘をついているかもしれない)、理解しようと努力することすらやめてしまえば、本当に何にもならない。

ちゃんと前向きな結論のところまで書ききって、かつそんな小ざかしい理屈抜きに面白い物語で展開してくれるんだから、短編集ながら見事なものだと思う。

思えば、今まで考えたことなかったけど、この辺のことは文学少女シリーズに通じるテーマなのかな…と言う気も。その理解されない幻想の間を、文学少女の「想像」がつないでいく、見たいな。おお、それっぽい…今度完結して読み返すときは注意してみよう。

余談だけど、後書きで「ちゃんと刊行順で読んでね!」という注意書きがあって、友人に「あえて6巻を2巻の後に読むのも時系列的には手かもしれない」と言っていた自分…すいません。