メグとセロンⅠ、Ⅱ

なぜかなかなか読む気が起きなくて今まで積んでいましたが…積んでてすいません。これはよい作品。

スピンオフ作品というやつで、世界観は同じながら前作の脇役だった人物が主人公になる類の話です。いやメグもセロンもほぼ出てきてませんので、実質別物です…むしろこのシリーズのために『リリアとトレイズ』にメグとセロンの名前出して伏線張るって、順序が逆です先生。けど面白いからナイスです。

なにはなくとも、とにかくキャラがいい。6人の軽妙な会話といい、主人公セロンの頭のキレといい、もう抜群。

こういう労力を全くかけない、むしろ休憩くらいのノリでストレスなく読めるのはやはり相当な事だと思います。今作のように内容も面白ければなお。

一人称で会話調のノリなんかだとその辺は特筆すべきことに感じないのですが、3人称でしっかり説明とか入って情報量も多いのに…と思うと、さすがだなと。

まぁいつも通り、いまさらですが。


以下ネタバレ

しかし時雨沢さんは読者を惑わせるのが本当に上手いと思う。

今作で言えば、果たしてジェニーは本当のことを言っているのか?自演なのか?というところをうまく引っ張っている点なんかでしょうか。

セロンの予告なく始まる演技の部分など、えっ?と思わせておいての展開あたりは印象深いです。

後は、マードック先生の話の落とし所の妙でしょうか。

最後の局面で、そのまま弟を警察に引き渡すという終わり方は、いかにも勧善懲悪でありそうな選択肢で、一番公正というか、少なくとも社会規範的には正しい。ただし誰も得をしない(強いて言えば国?)。

対してセロンが持っていった結論は、ほぼ全てをだましているけど、かわりに全員が得をする。

規範的に正しいのが良いのか、情に従って規範を無視するのが良いのか。

読者側から見ると、正しさばっかり重視して情をおろそかにするのも本末転倒(ルールは人を守るためなのに!)という感じがして納得できないと思いますが、規範をばっさり無視するのもそれはそれで不快な所があると思います。

まぁ現実、普通は規範に押し込められて生きているわけで…だからこそ、怪盗ルパン的なそういうのをぶっ飛ばす話が痛快と言うのはありますが、あれは元々規範に従って生きていない、自分とは最初から違う人種がやるからいいのであって、自分と同じようなものと思っていた存在が突然そういう行動を取るのもそれはそれでやりきれなさがあると思います。

その点、この締め方は社会規範的にはきちんと決着をつけつつ、望む結論に持っていくというのはベストの答えではないかと思います。まぁ多少優等生すぎて(状況もそろいすぎで)一般論にこぎ着けられない所はあると思いますが。

上手い伏線とクレバーなキャラクターだからこそ通る話だとは思いますが、一番心地よいのは確かだと思います。

いい話。