烙印の紋章Ⅵ

なんという骨太な異世界ファンタジー

そう奇をてらった話ではないのですが、とにかく物語が面白い。

戦記ものというのかな?国同士の駆け引きや戦争がメインで描かれますが、これが熱い。その辺アルスラーン戦記とかに近い気がします。

少しラノベにしては色々と重厚な感があるのでさくっと読めるほうではないですが(あくまで比較対象はラノベです)、それもこの小説では魅力の一つ。

何より主人公のオルバが、もう本当にかっこいいカリスマヒーローなのです。

こんな暗い皮肉屋天邪鬼のどこがヒーローだとか石が飛んできそうですが、こんな地に足着いたヒーローなかなかいませんぜ。人間らしさとカリスマ具合が絶妙。

このオルバが、様々なところで失敗をして、周囲や自分にいらだちながらも、そこから考え抜いて、気づき学んで王者の風格を身につけていくのは爽快です。

以下ネタバレ
オルバが幻影を見るシーンがありましたが、やっぱりこういう展開はつい中身を考えてみたくなります。

とりあえず、この幻影は心の闇を映すだけのようなので、出てきた他者も全部オルバの声であるものとして見ていきます。

順番に見ていくと、まずロアンやアリス、母親が出てきたのは、彼らへの未練ですよね。未だに忘れられず、彼らがそんな風にいてくれたらと思っているから、幻影を生み出してしまうし、その幻影を切ることもできない。

続いてオーバリーが出てきて自分を、ひいては沢山の兵を殺したことについて糾弾しますが、これは自責の念でしょうか。王子ギルとして必要な采配を振るったとは言え、オルバはやはり偽の王子であり、もとよりそんなことをする地位も覚悟もなかった。にもかかわらず、オーバリーへの復讐のためだけに周りをだまして数々の戦いを行ったので、その事実はオルバの責任感の範囲をはるかに超えてのしかかっていた、とか。

しかし次いで登場するギル・メフィウスが何とも言いがたい…自分の行ってきたことを改めて直視させられるという意味では闇だと思うのですが、この男の行動や言葉を見ていくと、覚悟と矜持を身につけた、オルバがこうありたいと望む人物であるように見える。

それが、王のいないタウランの現状を見続けたオルバの思考に、ギルの姿をまとって出てくるのは確かに自然なことですが…闇ではないような。まぁ、元々この闇は心を映し出すが、闇を増大するみたいな話だったということで。

余談ですが、赤竜や青竜、王女達含め、頑張った人間に救いがあるのはいい所だと思う。物語なんだから、現実の理不尽さをそんなとこまで持ち込まなくてもいいさ。

あとビリーナ王女は登場しなくて嘆かれていますが、この辺は既に彼女は承知の上だし、ようやくオルバが同じ所まで来たというところなのかな?これからは活躍してくれることでしょう…