小さな魔女と空とぶ狐

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南井大介さんの待望の新刊で、しかも挿絵が大槍葦人さん。小さな魔女は狙いすぎ…笑。

世界観については、1960年頃あったベトナム戦争辺りを思い浮かべておけば特に間違いないと思います。

この時点で何かが違うオーラを出していますが、その権力争いに利用される戦争の無慈悲さをドライに描写していく辺りはもうかなり異端。

と思いきや、基本はラブコメあり、変人コメディあり、空戦ありとエンターテイメントを押さえているのは流石の荒業。

癖はあるものの、これは面白かった。変わった作品が読みたければお勧めの一作。

以下ネタバレ

序盤の変人コメディな開発合戦の現実感のなさから、同時多発テロのあの執拗なまでの残酷描写はまず展開うまいなと。アンサリーナと一緒に冷や水を浴びせられたかのよう。

その辺含め、この話は全体通してアンサリーナの成長物語だと思うのですが、彼女の行動はテロ前とテロ後でそこまで変わらない所は面白いなと思いました。

結局どっちも兵器の開発をしているわけで、変わったのはアンサリーナの心持ちくらいのもの。けれど、読んだ人にはみんな後半の決意を秘めたアンサリーナの方が好ましくみえると思います。

これは科学者という枠ではなく、人間の基本的なスタンスに関わる問題ではないかと思ってみたり。

序盤のアンサリーナは無知で、自分の開発したものがどのような影響を与えるか、特に考えることもありませんでした。

その後戦争の残酷さを肌で感じたアンサリーナは兵器を作れなくなりますが、最後には戦争の悲劇を減らす決意を固めて、再び開発に戻ります。

アンサリーナ的には、最初の無知だった頃の方がおそらくお気楽で幸せだったと思うのですが、だからってそのままで良かったとは本人も周りも、誰も思わないかなという話です。

そういうテーマから見れば、確かに容赦ない世界観もうなずけます。

あとは、導き手のクラウゼを主人公にしたのは正解だと思います。アンサリーナが主人公だったらいらいらして多分読めない…笑。その分インパクトは強烈だったのではないかと思いますが。

そういう配慮もあり、テーマとエンタメの配分が良い具合だったのではないかと思います。面白かった。