奇跡の人 ヘレンケラー自伝


奇跡の人 ヘレン・ケラー自伝 (新潮文庫)

奇跡の人 ヘレン・ケラー自伝 (新潮文庫)

まあヘレンESPに触発されて読んだのですが、それにしては遅いな……。


しかしなんだろうこれは……一言で言うなら太陽でも直視した気分です、はい。まぶしい、まばゆいよ……日陰モンの僕にはとても耐え切れません。全編ことごとくこう、世界が輝いていて、明るくて前向きで、希望に満ちていて。22歳のときに書いたってことで、そういう歳だったのかもしれない。まあだいたい同い年ですけど。


とりあえず思ったのは、普通だな!ということ。なんかこう、もっとよく分からない感覚があったり、どろどろした暗い感じとかあるのかと思ったけど、ぜんぜん普通の女性でした。逆にそれはとてつもなくすごいことなんだと思いますが。


かなりの潜在能力が備わっていた(つーか天才)のだと思うけど、だからといって彼女の努力が色あせるわけでもなく。そういう辺りに元気をもらえる話ではあるのかなと思います。


僕はというと目を焼かれたわけで、そういった方向ではあまり読めませんでしたが……


ヘレン・ケラーが貧民街を訪れた時のことで、彼らに同情しながら書いた一節をちょっと引用したいと思います。

ああ、人間たちよ、なぜ自分の兄弟のことを忘れ、彼らの邪魔ばかりするのだ。なぜ食べる物のない人がいるのに、「われらの日ごとのパンを、今日も与えたまえ」などといのることができるのだろう。人は都会を離れ、その華やかさ、騒音、お金を捨てて、森と野原にもどり、素朴で正直な生活をすればいい!

こんなことが書いてあります。清貧とか、人間の善性を押し出した話かもしれませんが、個人的にはダウトで。


ヘレン・ケラー、あなたこそこの資本主義の、優勝劣敗の世界だからこそ生きてこれた見本みたいなものなのに、あなたがそれを否定するんですか、とかそういう話です。

産業革命が起きて、資本主義でボロクソの格差ができて(そのずっと以前から格差なんて当たり前にあったと思いますが)、その代わりに文明が進んで相対的に豊かな人が増えたおかげで、あなたが勉強するのに欠かせない浮き出し文字の本を作る余裕があり、試験を受けるのに欠かせないタイプライターが発明されたというのに。

だいたい、お金がなければサリバン先生も雇えないし、それ以前にちゃんと教育されていたかというと疑問です。要するに、ヘレン・ケラーの成功はこの犠牲を強いる構造の元に成り立っているといっても過言ではないわけで。


故人に対して若い頃の失言の揚げ足を取るなんて失礼極まりない行為という気はしますが、1冊の本としてはやはりこういう記述があったら反論してもいいかって気もします。


まあこういう記述があったとして、とてもお花畑とは言えないわけですけど。僕の想像もつかないような茨の道を歩んできた偉大な先人なわけですし。むしろその過去があってこの現在があるのがすげぇ。


僕はこの後の半生をよく知りませんが、とてつもない不運に襲われながら、とてつもなく幸運な境遇でもあったのではないかと。


たまにはこういう本を読んでみるのも良かったと思います。