東雲侑子は短編小説をあいしている

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

・ボーイ・ミーツ・不思議ちゃん

気になるあの子は一体、僕のことをどう思っているんだろう?あしからず思ってくれているんじゃないか、しかし僕なんかじゃとてもダメでぜんぜん興味ないんじゃないか……

そんな甘酸っぱいドキドキがいっぱいに詰まった作品でした。いやあ、侑子ちゃんかわいいですね、侑子ちゃん。ひたすら不器用なヒロインを愛でるお話です。

上記の感じだとドタバタしたラブコメっぽいですが、表紙から分かるとおり抑えのきいた、とても淡々とした話です。

そもそも一人称で語り部たる主人公のテンションがいつも低いのに、相手の子まで(主人公から見て)何考えてるんだか良く分からない不思議ちゃんなので、派手な展開になりようがありません。

ただこの小説の最大の魅力であるヒロインを輝かせるなら、このぐらいがむしろちょうどいいんだろうなと思います。

実際にこのヒロインは、適度に自信がなくて、相手の懐に突っ込んでいけない主人公のヘタレ具合によって輝いてる所はありますし。


・相手の承認を得る

恋愛ものと言えばつまるところ、好きになった(自分の中で聖化され女神になった)相手に承認されることによる欲望の充足を提供(エンターテイメント)するものだと思っています。

その過程において主人公が承認されうる存在になるために成長することも多いですが、ともかくメインはヒロインとの関係にあると考えています。

この点に関して言えば本作は、昨今のラノベにありがち(?)なヒロインの気持ちが見え見えだったり、主人公がヒロインを救うことで唯一の存在になってしまうようなことなく、非常にしっかり恋愛していると言えそうです。

何とも思ってなくて、ただ変わった奴だと思って普通にヒロインに接していた主人公、冷静で淡々とした普段から時折見せる茶目っ気や熱さのギャップやらに少しずつ惹かれていって……

いや、確かに話自体は王道・ベタです。読みなれている人ならなんとなくキャラ配置がつかめた頃にもうラストが読めるかもしれないくらいです。

ただ別に、ヒロインが一番輝けるなら王道でいいじゃないか!と。

つまり、キャラを際立たせたいのであれば、小説としてメインをそっちにすえるなら、話自体は丁寧に真ん中を書いていく方法も有効だ、ということでしょうか。真ん中と言っても、キャラに個性がありますから、そこからストーリーにもある程度味が出てきてますし。

丁寧に描いた良作だと思います。