烙印の紋章

・ファンタジーの戦記ものに求めるものはだいたいここにある。今最も熱いファンタジーラノベ

我々はファンタジーに何を求めるのでしょうか。

ファンタジーの利点として、現代においては再現できない世界を体現できるところにあると思います。例えば王政や貴族・奴隷といった身分制度であったり、剣と魔法が主力=英雄が存在しうる時代であったり。幻想の動物であるとか、秘境でもいいでしょう。

これらはなぜ求められるのか?

逆にシンプルすぎて何の説明にもなりませんが、それは果たされえない欲望を形作ることができるからではないでしょうか。

王族としての権利と義務、英雄になること、未知に対する征服。いずれも現実においては不可能な願望を体現しているといえます。

たいていの物語にはエンターテイメント性はありますが、その中でもファンタジーにおいては、現実では想定できない事柄が描かれることを期待しているのではないでしょうか。

そう考えると、ファンタジーにおいて戦記ものをやる場合に期待されるのは、空間の征服(相手国を倒す、自国を守る、国を統一する)、人的征服(他国を倒す、従属する)、同化による自己の拡大(主人公が英雄になる、又は王としての権利の行使や責務を果たす)といったところではないかと思います。

これらを全て高い質を持って兼ね備えているのがこの『烙印の紋章』です。


・主人公オルバの英雄譚

まず物語の初めにおいて、オルバは奴隷であり、明日も分からぬ剣闘士です。ここから様々な人間の我欲と思惑が渦巻いた結果、成り代わって王子として台頭していくことになります。

この奴隷→王族という落差がいいですよね。またその際に都合が良いことだけではなく、様々な弊害もあるため、ただのご都合主義には感じません。

この後もオルバが剣闘士時代に戦い続けて身につけた剣の実力とある種の嗅覚が、活躍に貢献していくことになります。ここもうまく出自から身につけた能力とすることで、安易に天才としてしまうことがありません。

なにより、オルバの動機を丁寧に追うことで、力あるものの責任を自明のものとせず、納得できるものとしている所は素晴らしい。

要するにオルバは格好いいしリアリティもあるナイスキャラだということです。

その決意や気づき、オルバの成長を追体験することで、我々自身にもささやかながら恩恵が……あるような、ないような。


・群像劇とすることで深く体感できる世界

物語の展開は遅くなるため、もどかしさはないではないですが(早くオルバの活躍が見たい!)、群像劇として様々な人間の視点から世界を描くことで、より深く世界・物語を味わうことができるようになっていると思います。


ラノベにおいて、今最も熱いファンタジーの一つだと思います。