東雲侑子は全ての小説をあいしつづける
- 作者: 森橋ビンゴ,Nardack
- 出版社/メーカー: エンターブレイン
- 発売日: 2012/05/30
- メディア: 文庫
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・恋愛一本槍
この話はぶれませんね。
最初から最後まで恋愛以外の要素を作品に持ち込みませんでした。
主人公の葛藤と成長も恋愛で起こるなら、やりたいことを形作るのも恋愛です。
個人的には、恋愛というものが人にどういう変化を与えるか?というものを真摯に追っているように感じましたし、それが多岐にわたった場合のモデルケースとして非常に参考になりました。
・お互いを成長させたことでかけがえのない存在に?
前巻を読んだときの予想として、今巻では東雲と三並が確固たる理由をもって結びつくことになる過程を描くことになるんじゃないの?という予想を立てましたが、見事に外れました。
この予想の根拠としては、あくまで普通の恋愛としてみたら理由なんてないのが普通なのですが、物語というのはある時間だけ切り取ってしまうために、お互いに対して「ある種のかけがえのなさ」をもっていないと、その関係が物語の後にも続いてくれるのか不安になってしまうと思ったからです。
よく言いませんか。シンデレラがあの後ハッピーエンドに終わったわけがない、とか。同じ話です。だいたい高校生の恋愛がそのまま継続するケースなんて……まあ、意外とそこそこ見かけますが、より破局するケースの方が多そうですし。
この「かけがえのなさ」について明確な理由を提示しない変わりに、では不安感を和らげるためになにがあったでしょうか。
私は、この話では恋愛という関係によってお互いを変えていった過程を共有することで、互いの重要性を高めているように思います。こいつのおかげでおれはここまでこれたんだ…的な話です。
・美しいが危うい
このお互いを成長させあう関係というのは純粋なところがあり、大変美しいのですが、やはり同時にどこか危ういものを感じます。
主人公の三並ですが、東雲があっさり心変わりしてしまったらどうするつもりなんでしょうね?
そうされない保障は、この作品ではなされていません。くどいようですが、「なぜ三並でなければならないか?」「なぜ東雲でなければならないか?」という点がはっきりしていないからです。
東雲のために、人生をささげたいんだ!と言っていたのに、東雲から別れなんて切り出されようものなら、元の無気力人間に逆戻りしちゃうのではないでしょうか。
あまりのきれいな終わり方に不安を覚えてしまったので、評価的には少し下げました。
とはいえ、3巻はもう作者の方があとがきで述べている通りひたすらいちゃいちゃしてるだけという所もないではないですが、恋愛を真摯に扱った良作として非常に楽しめました。