TOKYO GIRLS LIFE 理解できる範囲に収める妙技

※ネタバレ

・等身大の女性?

私は女子という生き物が苦手だ。
仲良く笑っていた次の瞬間、手のひらを返したように悪口を言い出す。
極上の娯楽のようにケラケラと楽しそうに毒を吐く。
仲間がいないと息もできないくせに、平気な顔して仲間を殺しにかかる。
不幸に浸るのが好きなくせに、自分より不幸な人間を見つけるのが好き。
都合が悪くなれば誰かの庇護を求めて泣き、時には急な癇癪を起こす。
口を開けば、恋だ愛だとかしましく、同じ話ばかりを繰り返す。
こんな生き物を、私はどうしても理解できない。

このど頭でもう鷲づかみにされました。女性作者が、20代後半の女性を主人公に据えて、一発目これかよ!すばらしい。

上手く、一般的な女性像のネガティブな面を切り出したなあ。これが決して全てとは思いませんが、あるあるですよね。

この独白をする「女らしくない女性」を主人公に持ってきたのは、ラノベ的には当たりではないかと。読者の多くは男性だろうしね。いきなり全然違う価値観をぶつけてカルチャーショックもありだとは思いますが、こっちのが入りやすいと思います。

まあ結局するのは恋の話なんですけどね!この主人公によって、かなり理解しやすい範囲に降りてきてくれていると思います。

それに、同じくらい友情にも重きが置かれていて、人間関係全般の「信頼」としても読めるので、かなり間口の広い小説だと思います。

この話は野郎こそ読むべし!


・恋を抽出する

この話は三人のタイプの違う女性を描くことで、様々な「恋」に対する見方を提供してくれます。

このことにより、より「女性にとって、恋とは?」という部分に対し、答えを返そうとしているように思います。

どんなもんかは……まあ、読んでみてからのお楽しみってことで。ただ、恋というのは女性にとっては男性でいうプライドというか形而上学的な何かくらい大事なものなんだろうなあという認識は新たにしました。


・都合の良くない世界

結構べた褒めなんですが、長所の一つとして、都合のよさが絶妙!というところがあると思います。

前々から言っているとおり小説ですから、都合の良い部分が皆無とは言いません。ただしそれが「ありえねー!」っていう部分ではなくて、まああるかもね、っていう部分である点です。

具体的に言うなら、バーの人たちはいい人たちだけど、室口はちゃんとクソ野郎だってことですね。

これで室口が裏表のない超いい人って言ったら「はいはい良かったね」ですけど、清清しいくらいゲスだったんで安心ですよ!

だいたいあの企画で主人公をわざわざ指名してくるような人間がマトモなわけがなかったのですが。この辺のバランス感覚は素晴らしいと思います。


・帰る場所を描くのは立派なエンターテイメント

上記2点のほかにも、この小説には長所があります。それが行きつけのバーです。

過ごしていて心地の良い場所を描くというのは、日常系が流行っていることからも分かるとおり、今とても求められている立派なエンターテイメントだと思います。そういう意味で、この小説も帰る場所(=行きつけのバー)をうまく描いたエンターテイメントとも言えるでしょう。

バーの人たちも心の清い素晴らしい善人というわけでもなくて、みんなしょうもないんだけど、しょうもないなりに何とか頑張ってるような連中が集まっている辺り好感が持てます。

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評価は★★★☆でしたが、+αあってもいいくらいです。リーダビリティも高いし、上記の通り、テーマとしてもエンターテイメントとしても面白い。傑作とは言いませんが、いいものを読んだと思います。

興味があれば、読んで損なしの一冊です。