雪の翼のフリージア 期待を裏切る代償

雪の翼のフリージア (電撃文庫)

雪の翼のフリージア (電撃文庫)

※2節目以降ネタバレ

・再起の物語

翼を持ち、空を翔るのは当たり前の人々が住む世界で、翼を失ったプロの「飛翔士」である少女は再び空を目指す。レースでの優勝と、その先に待つ家族との再会を求めて。

あとがきに習えば、『雨の日のアイリス』が再生の物語なら、本書は再起の物語である。

しかし構成する要素が多いため、一概に型にはめ込むのも難しい。強いて言えば「おとぎ話」というのが適切ではないかと思う。

個人的には疑問の絶えない展開ではあったが、最後まで読めたのでこの評価とした。


・スターを主人公に据える全能感

翼を失うまで、主人公のフリージアは10年に一人といわれる逸材であり、ガレットも稀代の名工である。

そのため、フリージアがあっという間にカンを取り戻してレース優勝が視野に入ることや、思い通りの義翼を大した苦労もなく作る点は思い通り以上にすらすらと事が進み、心地よくはある。

ただしテーマから考えると、フリージアの努力するシーンがかなり割愛されていたのは少しもったいないような気もする。成長という要素をかなり大胆に削っており、結果として成長モノよりは無双モノに近くなっている。


・意表をついた展開だが……

私は本書を読んだ限り、焦点は「翼を失った少女が義翼によって再起し、レースで勝つこと」であると考えた。

この前提が間違っていれば話にならないのだが、仮に正しいとする。もちろんレースで勝つのは妹と再会するためであるが、目的はどうでもいい。

すると、レースの勝敗を決める(グロリアとの優劣を決める)要素についての説明がとても少ないこと、ガレットが正体を隠していることなどがどうにも邪魔をしているように感じた。

ガレットが正体をバラせないのは心情としては理解できるが、本筋からすると別にどうでもいいように見えたので、そこに紙幅を割くことに違和感を覚える。

グロリアとの関係性も、どうにも腑に落ちない。ガレットへの思いがレースに影響を与えかねないという展開は、各人の死力を尽くすレースが展開されることを期待すると少し肩透かしを食らう。

また狙撃手の正体が結局撃たれるまで分からない点は意表をつかれたが、レースの勝敗に狙撃が絡んできてしまうのはガレットの敗北であり、むしろがっかりした。

総合して考えると、それぞれの要素が悪いというわけではなく、軸に設定したものに対し、付属物の比重が大きすぎるように思える。

大空へ飛び立つ努力は割愛され、熱いレースは妨害という形で幕を閉じた。これらに対する期待を裏切るほどの理由があったのか、最後までよく分からなかった。

仮にガレットとフリージアの心の距離の話(恋愛モノ)として読めばこの展開にはさほど違和感がないと思うのだが、売り文句が「努力と信念の物語」であり、最初に持たされるバイアスとのズレがいかんともしがたい。

あと微妙にエロいのもいるのかは疑問だった。

                                                  • -

個人的には好みの題材なことに加え、『雨の日のアイリス』が好感触だっただけに、何とも惜しかった。少しいっそ表紙やら売り文句やら、売り方をガラリと変えれば違和感なく読めたような気もする。<評価>
親愛★★
無双系★★☆
純愛★★☆