子ひつじは迷わない 走るひつじが1ぴき

・エンタメ良作+α

本作は主人公の所属する生徒会が立ち上げた、相談したい生徒の悩みを解決する「迷わない子ひつじの会」。そこに訪れる人の証言から、悩みの解決方法を主人公たちと一緒に推理するミステリ形式の話となっている。

とはいっても推理は本格的なものではなく、クイズ程度の軽いものであり、それにまつわる人間関係がメインになる。この辺はあとがきの「改題前の『なるたま〜あるいは学園パズル』というタイトルまんまの話である」という話に同意できる。

3章くらいまでは概ねその調子なものの、後半にこの形式と軽いノリからは予想できないほど人間性などついて突っ込んでいく。この辺が本書を非凡にしている要素だと思う。

また基本的な点として、読みやすいしキャラが立っている。それに人格について安易な表現は慎んでいる(個人的にこれは重要)所はとても好感触。ミステリ要素で話を引っ張っていく所もうまい。新人賞の受賞作としては確かに頭ひとつ抜けた出来のように感じた。


・基本的にみんなどこか「世間とずれている」もの

本作の長所として、人間性についての描写が優れていることが挙げられると思う。より単純に言えば人間が描けている。さすがに現時点ではラノベ内のミステリ等のエンタメを主軸にした中では、という但し書きを付けなければならないとしても。

具体的にどこがというと非常に難しいが、無表情な人間であっても相応の内面を持っていたり、人のために動く主人公にはそれなりの動機付けが与えられていたりする点は、少なくとも挙げてもいいだろう。それでいて理由のないこと(なんとなく人とモノの感じ方が違う、とかそういう生得的なものとか)にはちゃんと理由がない。

あとは例えば、自分では「なにかおかしい、人間として周囲から決定的に浮いてしまっているんじゃないか」と思っている描写が入ったとしても、ほかの視点から眺めたときに「ちょっと変わった感性の奴だ」くらいにしか思われてないところなど。複数人が交代で1人称語りをする形式をうまく活用している。


・一段進んだ着地

本書のミステリ要素は確かに凝っているわけではないが、推理から一歩進んだところに着地するのが面白い。

謎は少し考えれば解けるし、探偵役が簡単に答えをくれる。

しかしその回答を得た上でどうするのか?という部分で予想を裏切ってくる。感覚としては『文学少女シリーズ』に近い。「予定調和を作ってそちらに誘導しておきながらそれを破る」というカタルシスを感じる部分をテンプレートとして作った所は特に巧みだ。

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エンターテイメントとして非常によいバランスを保ちつつも、総合して水準を超えた良作であると思う。評判になるのも頷けた。<評価>
コメディ★★★
ミステリ★★★☆
テーマ性★★★☆