魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 本格ファンタジーの予感……ただし肌色多め

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (MF文庫J)

魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉 (MF文庫J)

・安定感のあるファンタジー ベテランの貫禄?

本書はしがない田舎の領主だった少年ティグルと、文字通り一騎当千の「戦姫」の出会いから始まる戦記ものの異世界ファンタジーだ。

著者は様々なレーベルで、多くのファンタジーのシリーズを持っており、本作もそのひとつに当たる。

そこまで突飛な設定を持っているわけではないが、世界観の構築や描写に安定感があり、ベテランの風格を思わせる。ファンタジーとしての骨子は残しつつも、ラノベらしく読みやすく、キャラもどちらかというとアニメ調ではあるが、よく立っている。

しかしやはりレーベルによってカラーがあり、このMF文庫では露骨なまでにラッキースケベ(後書きいわく、肌色場面)が多い。この辺、なんとなくレーベルの意向を感じることができて面白い。


・戦に「英雄」が混ざる

ラノベで戦記ものをやるとたいてい問題になるのが、個人と全体のバランスだ。これはラノベという媒体がある程度不可避的に抱える問題でもある。

本来戦記ものというのは、本来マクロに翻弄される個人や、その重責がのしかかる将の立場など、いわばマクロのダイナミクスを存分に感じられるのが強みといえる。

しかしラノベというのは昔キャラクター小説と名づけられたほど、基本的にはキャラの魅力を活かすものだ。しかしそうするために特定のキャラを活躍できるほど強くすると、パワーバランスが崩れ、言わば無双状態になりやすい。そうするとリアリティをなくしてしまう。

そのため、ラノベにおいてはあらかじめ代理戦争的にして、大軍における戦争を排除してしまう場合も多い。『氷結境界のエデン』『鋼殻のレギオス』『輪環の魔導師』などがそうだ。

それはそれでひとつの手段で、上記の作品群はそれをうまく活用して成功しているが、やはり舞台背景をある程度特殊にせざるをえない。そうすると、戦記ものの醍醐味である国と国のぶつかり合いなどでマクロのダイナミクスをつけることがどうしても難しくなる。

一方で、この両立に成功している作品もある。『デルフィニア戦記』『空の鐘の響く惑星で』『烙印の紋章』『アルスラーン戦記』などだ。やはりいずれも傑作が並ぶことになる。

これらの作品においては、「英雄」が戦の中に存在する、というギリギリのラインをいっている。個人として突出していながら、全体への影響は限定的に留まるという形だ。それゆえに個人では抗えないマクロ、言わば大勢が厳然と存在する。

この『魔弾の王と戦姫』も、その方向性を目指しているのを感じる。ティグルもエレンも、強すぎるがバランスを崩すほどではない。いや、個人としては有り余るほどの影響力を持っているが、全体に与える影響が完全ではないというべきか。個人的には少し1巻の段階ではキャラが強すぎるように感じるが、それが成功するかどうか、今後に期待したいと思う。

                                  • -

一巻はまだキャラ紹介とプロローグというところで、今後の展開に期待します。プロローグとはいってもきちんと見せ場もあり、楽しめる作品ですので、ファンタジーでも少しカタい、けどマイルドで読みやすいような作品を求めるなら読んでみることをお勧めします。<評価>
無双系★★★☆
親愛★★★
ハーレム(能動)★★★☆