魔弾の王と戦姫〈ヴァナディース〉5 このバランス取りって難しいんだな……

※2節目以降ネタバレ

・バランスの綱引きか…?

引き続き読んでいる。というか最新まで読んでしまった。

以前紹介したとおり、本書はしがない田舎の領主だった少年ティグルと、文字通り一騎当千の「戦姫」エレンの出会いから始まる戦記ものの異世界ファンタジーだ。

前回紹介したとき、本シリーズは「ライトノベルらしいキャラの立ち方と、戦記ものらしいマクロのダイナミクスを併せ持つ優れた作品かもしれない」ということを書いた。

最新巻まで読んでみて言えるのは、方向性としては指摘したので間違っていなかったように見える、ということだ。

しかし、レーベル的な制約があるのか分からないが、少し疑問を覚えるシーンもある。いや肌色シーンが相変わらず不自然なくらい多いなとか、表紙のヒロイン全然出てこねーとか絵だとミラそんな胸小さくねーとかそういうことではない。もっとマクロ的な要素だ。

ここまで読んでいるのだから、当然面白いと思っている。しかし、何か言い切れないものを感じたことも確かなので、その辺について考えてみたい。

自分で書いていてただ文句を言っているようにしか感じないのだが、私はより面白く感じた場合と何が違うのか明らかにしたいだけなので、ケチをつけるという意味では本意ではない。

・疑問その1、ロランの扱いについて

3巻で登場する、本作の中でも最強の騎士ロラン。彼の死がストーリー上問題のある展開だったかと言われれば、ないと言える。後半で補足もされる。というか生きているとパワーバランス上とても扱いにくいキャラだというのもなんとなく分かる。

しかし満足する死に方だったかというと、それは疑問が残る。

同じような死に方をしたキャラとして真っ先に思い浮かぶのは『薔薇のマリア』のデニスである。彼の死に憤慨して以降読んでいないが、余りにもろくでもない死に方だった。

ここでの問題は、そもそも展開として面白さに疑問が残ることだ。

最強のキャラが敵の姦計にかかってあっさり死んでしまいました、という展開に対して、心躍ることがあるだろうか。

なんというか、『水滸伝』(北方謙三)みたいな感じのことを言いたい。単純にもっと格好いい死に方あるのではないか、というか。今回の場合で言えば死に様はそれなりに格好いいと言う向きもあるかもしれないが、マクロ的に死に向かう理由があまりに乏しいのである。

確かに、いつキャラが死んでもおかしくなくて、気を抜いたふとした瞬間に死んでしまうような作品は、それはそれでたくさんある。特にシビアな世界観の作品ではよくある。

しかしそれはそういう方面からリアリティを追求した場合であって、その場合はそれがそのまま作品の緊張感になるのだ。

少なくとも彼が彼の大義に従って死んだとかでは全くないわけで、今回の場合であればキャラ格に対し、非常に不完全燃焼になったことは確かだと思う。


・疑問その2、ムオジネル軍について

ここに疑問が残るのはひとえに扉絵の地図が適当すぎるからなのだが、この点はどうしても触れておきたい。

4巻において、ムオジネル軍2万に対しティグル軍2千で戦いを挑むことになる。主人公だから何とかなるが、普通に考えたら愚策である。確かに寡兵を持って大軍を打ち破るというのはたくさんあるらしいことは聞いている。ゲリラ戦などもその一種だろう。

しかしそれならそれでもう少し「戦わないようにする」という部分について力を入れてもよかったのではないかと思う。しかもティグルに関して言えば、自ら積極的に戦いに行っている。

アニエスを守るというのは大義としては非常に都合がいいが、自分たちの現状から冷静に判断できないのは愚かであり、この場合のティグルの判断はあまりに拙速ではないだろうか。何しろ当初は援軍の当てもないのだ。それに地図上では順当にいけばネメタクムの方が近いのであり、うまくいけばテナルディエと衝突し、消耗させられる可能性もある。

ライトノベルの主人公的にそこは助けに行くだろ!という決断が是なのかもしれないが……。


以上二点あたりに目指している方向性への壁を感じた。この辺がどうなるかも含めて、今後の展開に期待したい。