東京レイヴンズ8 -over cry-


※2節目以降重大なネタバレ

・すさまじい加速感

陰陽師が題材ではあるものの、だいたい学園バトルものと思っておけば間違いないシリーズ第8巻。

アニメ化が決まったことを素直に喜ぶべきか、果たして面白くなる所までたどり着けるか不安がるべきか。まあ私がどう思おうと、喜ばしいことに変わりはない。

それにしても、6巻からの加速感が本当にすさまじい。主人公からピントのずれた話が多く不完全燃焼だと言っていたのが嘘のように、ぐいぐい進んでいく。

確かに、それまでの積み上げがあったから6巻からの展開が面白いのだ、という意見には賛成できる。

しかし通常であれば、そこまでで面白さを示さなければ読者が離れてしまうように思う。私も6巻まで読めと言われなければ途中でやめていた可能性が高い。

そう考えると、改めて作者に対する読者からの熱い信頼に驚かされる。あざの耕平氏の作品は後半から間違いなく面白くなる、とみんな確信していたというのか。逆に言えば、氏は今までの作品での積み上げで、読者にそう思わせるだけの実績を作ってきたということだ。それはそれですごい。

そこから翻って、前半の冗長な展開も後半の加速を前提としていると考えれば、納得できないこともない。単純に私のような初心者にはハードルが高かっただけだ。

とにかく次の巻で第一部が完結だそうで、いつ第一部になったのか判然としないが、怒涛の展開を期待して待ちたいと思う。


・試される夏目のヒロイン力

7巻が終わった時点で、読者の注目の的は「果たして春虎の覚醒は夜光としてのものか?夜光の式神・飛車丸としてのものか?」だったのではないかと思う。

それが今巻、電撃的に明らかになったかと思えば、次の注目は「夏目は生きているのか?」である。まさに息もつかせぬ展開だ。

この夏目の容態について、友人と話していて興味深い意見が聞けたので、少し考えてみたいと思う。春虎が飛車丸の可能性を私に教えてくれたのも彼なので、いつも新しい視点をくれて感謝している。

今巻を読み終わった後も、私は「夏目は正ヒロインなので、死ぬことはないだろう」と安直に考えていた。

しかし友人は「夏目はヒロイン力が高まりすぎて死んでしまうかもしれない」と言った。二人とも作品内の怪我の容態などには触れていないのは笑えるが、これは興味深い視点だと思った。


まず夏目の置かれた状況について考えてみたい。

夏目は夜光の生まれ変わりだ、という触れ込みでここまできた。これは夏目がキーパーソンであるという最大の理由だった。また春虎が想っていた北斗であり、陰陽師の世界に入るきっかけになった人物であり、主として契約した人物でもあった。これだけそろうと、正ヒロインの座は揺るがないように思える。

しかし、この8巻の展開を考えると、夏目はほとんど役割を終えているように見える。春虎=夜光を陰陽師の世界に引き込み、封印を解くきっかけにもなった。そして夏目自身は何者でもなかった。

もちろん優秀な術者であるし、場合によっては夏目が式神として覚醒するようなケースも考えられる。後者は分からないが、前者であればその存在は必須ではない。


次に、春虎を取り巻くヒロインの状況について考えてみたい。

コンはまあ除外するとしても、鈴鹿はほとんど参戦していると言っていいし、今巻から京子まで本格参戦してきた。ハーレム形成である。

しかし、夏目のヒロイン力が余りに高いので、なかなか勝負にならない。そもそも契約の相手であるのに、今巻においては一気に男装を解除し、北斗であることもカミングアウトした。ヒロイン力が圧倒的に高くなってしまったのだ。


以上の2点を考えると、ヒロインズの形成において夏目の優位性があまりに際立っていながら、今後のストーリーとしてほかの二人に比べ重要な役回りを果たさない可能性がある。そのため、物語の圧力により排除されるかもしれない。

私の解釈ではこれが「ヒロイン力が(キャラ格に比べ)高まりすぎて」死んでしまう、と言うことだ。

確かに今巻における夏目のフラグの立て方は尋常ではなかった。過去が走馬灯のように語られるし、約束もしてしまった。脇役だったら華々しく散る所だ。

ゆえにこれらのことから、生き残るなら何らかの「格」が必要になるのではないか、という推論も導ける。

面白い読みだと思う。次の巻が楽しみだ。

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今回はほぼ邪推に終始しましたが、その辺をアレコレ考えるのが楽しいくらい入れ込んでいると思ってください。<評価>
ベタ甘★★★
日常系★★★
親愛★★★★
ビルドゥングス・ロマン★★★
ハーレム(能動)★★★

この話の面白さ、この評価軸で表しづらいですね……まあ、まだまだ不完全ということでしょうか。