僕らはどこにも開かない MW文庫の先駆け

僕らはどこにも開かない (電撃文庫)

僕らはどこにも開かない (電撃文庫)

・イラストなし、悪辣な表現過多の問題作

本書は8年前に電撃文庫から刊行された。この表紙からも分かるとおり、なかなかの問題作だ。

内容からしライトノベルらしくないし、どこを探してもイラスト一つない。

現在でこそMW文庫という受け皿があるが、当時これが電撃から出版されたのはやはり驚くべきことだと思う。

ざっくりジャンル分けすれば学園もの+サスペンスという所だが、閉塞感の中での病んだ内面描写や、全くファンタジーではないにも関わらず「魔法」や「電波」などの概念を扱う人の存在がこの小説を異質なものにしている。

読み味としては西尾維新に近いが、西尾維新はメタ的に狂った人を描写するのに対し、こちらは真摯に狂った人を描写するので、よりいたたまれなさが強いように思う。

しかし以外にも読後感はさわやかなので、そう間口が狭いとも思わない。少し尖った話がほしいなら、一度読んでみることを薦めたい。


・僕らはどこにも開かないのか?

私たちは他者のことを真の意味で理解することは絶対にできない。少なくとも今のところは。

推測することはできるし、それが当たっていることもあるだろう。分かりやすく顔に出ていることだってある。しかし、それが他人である限り、数ある可能性から一つに「確定」させることは不可能なのだ。

まさに「僕らはどこにも開かない」。

ならば、他人とのコミュニケーションは不可能なのか。結局推測の中で一方通行を繰り返すことしかできないのか。

本書はその答えを探す試みでもある。

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本書はテーマ性が強いですが、あとがきで作者の方が言うようにキャラクター主体で読んでもいいのかなとも思います。単純に話としても面白いので。