わたしたちの田村くん

竹宮ゆゆこさんの処女作ということですが、クオリティ高いなぁ…このころから軽快な文章は健在だったようで。

この全力な青春具合がまぶしくてもう。たまらん。

オーソドックスなラブコメかと思いきや、そうはいかない。ラブコメ弱いんで言い切るのに不安が残りますが。

まぁラブコメ弱点な僕が読めているので、やはり面白いのではないかと当てにならん事を言っておきます。

以下ネタバレ

うさぎホームシックだけで言えば、胸が熱くなるような場面も多くてこれ自体良くできた短編だと思うのだけど、ある女の子を救済するという点ではさほど斬新な話ではないと思う。

いや基本的に、物語で恋愛が繰り広げられると高い確率でこういう形態をとると思うので、だから何?という感じなのですが……まぁその中身も質は高けれど、既存の範囲からは出ないかなと言う意味で。

先に主人公の男の方が惚れる展開は、ラブコメ的にはハーレムになりづらそうなので、それだけでも珍しい気はしますが。というか、普通のエロゲーとかで言ったらこのままエンディングの流れかも。

しかしこの話、その後から『氷点下エクソダス』に続くのでびっくり。

1話で両思いになったヒロインと別々の高校に進学した主人公が、その先で出会った女の子を救いたくて、な話。

なんでこれで驚くかと言うと、普通ラブコメで複数ヒロインが出てくるとき、主人公の気持ちがどのヒロインにも偏りきらないで行ったり来たりするものだと思っていて。まぁそうしないと安定しちゃって二人目以降のヒロインが全員ただの当て馬になっちゃうので(まぁ明らかにそう見えても、一応チャンスはあるものだと思う)。

だから、最後の決着までは主人公は誰も好きにならないし、救われないんじゃないかという考えがあって。あながち間違いじゃないと思うんですが……主人公が選んでしまえばメインヒロインが決まり、主人公が救済されると、救済したヒロインが唯一の存在になってしまうので。

まぁそういう意味ではハーレム系の主人公はかなり異常と言えるわけですが。大抵は超鈍感だし、人を救うと言う超重労働を何の理由もなくこなすという無茶な行為を要求されるので。衛宮士郎とか上条当麻とかぶっちゃけ頭おかしくないですか?という。士郎は作中でもう遠坂に喝破されてますが。

閑話休題

そんなわけでこの話のように、一人目のヒロインを救済して自分もその子を好きになったのに、離れて二人目が出てきたときに、「俺は一人目を忘れてしまったんじゃないのか……?なんだこの気持ちの変化は?」という葛藤が起こるのはレアなんじゃないかと思います。

いや現実の別れ話なんてみんなこんなもんじゃないかと思うんですが、あと青年誌の恋愛漫画なんて大体この展開ではないかと思うんですが、ラノベじゃあんまり見ないような?と。

この理由なき「一目惚れ」と言えるものは、強烈な原動力になる反面移ろいやすい性質があると思うので、そのある種の不実さは物語的な人生を救済された結果「惚れた」というのなんかとは相容れないところがあるからだと思います。

まぁだからこそ今回の主人公の行動が感覚的には容認されうるという面があると思うのですが、けどそれってやっぱり不実じゃないのか?という疑問も出て、それは上記の通り主人公の悩みでした。そこへ来ると兄貴の「男には卑怯者の泥を被らなきゃいけないときがある……」という台詞は渋いですね。

しかしなんだかんだで、ようするに二股かけてる状態になっちゃうので、見てる側としては「えー……」ですよね。田村の場合は状況がある程度合法化したとはいえ、今後はやはりどっちかに絞る展開になると思うので、その辺どう納得させるのだろうか?と。

そんななので、ハーレムを作る主人公の動機としては珍しい、けどあり?ただし後が大変、という印象を受けました。

どういう落とし所なのか楽しみです。