物語内における自己を拡大する、抜け道のような選択肢

・自己を放棄する中で自己を拡大するか、さらに放棄するか

3つ前前々回前回と成長について考え、その内容としては、

・成長は「面白い」の重要なファクター。己の自己拡大欲求を直接満足させることができるから

・別に成長と言うファクターを抜かしても欲望の充足が果たされれば面白い(=エンターテイメント)

という話でした。

明らかに用語が一般的でないのに話が長引いてきたので、どこかで整理して普通に初見でも分かるようにしたいです……

ここではもうエンターテイメントと言ってしまいますが、基本的には最初に述べたとおり小説を読むことは自己放棄欲求です。

その中での欲望の充足=エンターテイメントの手段として、どちらかというと日常系の話を多く例に取り上げていました。

これは放棄している中でさらに仲間とか恋愛という共同幻想に自己を放棄し、その中で安定を得ている……と考えられます。

一見エンターテイメントにはこのタイプが多そうです。しかし実はエンターテイメントの手段として根強い人気を誇るジャンルがあります。


・俺TUEEEEEEEEE!

主人公が無双するタイプのお話です。「俺TUEEEE!」的なアレで、多分ネット小説では最も多い基本スタイルです。代表的な作品としては『SAO』『魔法科高校の劣等性』などでしょうか。これらはどちらもその典型のようでありながら、その枠をはるかに超えてしまった作品ではありますが……

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上) (電撃文庫)

魔法科高校の劣等生〈1〉入学編(上) (電撃文庫)

しかしまあそのジャンルの代表作が、典型でありながらその枠を超えてしまうというのは良くある話ですので。

最も原始的な欲望として、「何も苦労せず最初から全能である」があることは今まで述べてきたとおりです。主人公無双タイプの物語はこの欲求を見事に満たしていると言えるでしょう。

あまりに世界から度外れて強いと物語が成立しなくなるケースが多いので、うまく収める(結局最強ではある)事が多いようです。

この手の作品はただもう、ひたすら気持ちいいんですよね。例が名作すぎるのでイマイチ伝わらないかもしれませんが、このジャンルの極北みたいな話は本当になんというかシンプルで、全能感を満たすだけの話になってます。別に主人公が苦労して成長するわけでもないから、痛みすら伴いません。


・商業レベルで見ると少ない

トレンドなのか、技量の問題なのかは分かりませんが、商業の作品では比較的少ないかもしれません。

※(注・後日追記)すいません、有名な作品で一つありました。このシリーズは気持ちいいくらい無双します。

スカーレット・ウィザード〈1〉 (C・NOVELSファンタジア)

スカーレット・ウィザード〈1〉 (C・NOVELSファンタジア)

暁の天使たち (C・NOVELSファンタジア)

暁の天使たち (C・NOVELSファンタジア)

どれが最初だか忘れましたがクラッシュ・ブレイズもそうです。


自己をを全能のキャラに委ねることによって、自己を拡大することなく拡大欲求を満足させる。妙手だと思いますが、主流にならないのは恐らく物語として起伏がつけづらいからではないでしょうか。起伏のない物語は冗長になりがちで、割とすぐに飽きてしまうようです。

この起伏の話もどこかでしておきたいですね。一通り考え終えたら、モデル化するなりマップ化するなりして整理しないと……