東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる

東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる (ファミ通文庫)

東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる (ファミ通文庫)

※ネタバレる

・揺れる人見知り心

あいつのつれない態度はなんだろう、もう俺には興味がないんじゃないか、誘っても断られるし…だいたい押しが弱くて拒絶できないだけで、本当はもう愛想を尽かされているんじゃないか?


悶えますね。


※前巻とほぼ地続きのテーマですが、前巻が相手の承認を得ることまでにフォーカスされていたのに対し、今作は結局その承認が本物かどうか確信できない(相手が本当のことを言っているかなんて本質的には確かめようがない!)中でどう行動するのか?といったことがメインです。

対人関係での悩みどころのジレンマをうまく描いていると思います。特に人見知りの(笑)。

この主人公が実にヘタレで、経験値が足りなくて他人と距離感がうまく取れない、自分に自信がないから相手の挙動がネガティブに写る、妙な自意識があって相手に踏み込めない。なんという俺。まあこの主人公は自分と違って、最終的にはやってくれる男ですけどね!

自分に自信がなくても、断られるかもしれなくても、それでも行くんだ!っていう主人公の決断までの流れはとてもいい。特にどんどん相手の気持ちに自信が持てなくなっていくところの描写の丁寧さ。

自分の価値を判断するのは自分じゃないんだから、ダメ元でも相手にぶつかっていくべきだ!というのは本当にその通りだと思います。

これは壁井ユカ子『クロノ×セクス×コンプレックス』でまさに同じ様なことを扱った名言があります。ちょっと引用してくると、

「お前自身、お前を利用するために近づいてくる人間を友人だとは認めていないものを、何故ミムラにとって利用価値のある人間でなければ友人でいられないと思っているのか(前後略)」

(『クロノ×セクス×コンプレックス③』P.132 司書の台詞より)

さらっと言われた台詞でしたが、2年半も前に読んだときから頭に残って離れません。この話は完結する目処はたってませんが、クオリティ的にもオススメです。


・結局東雲の何に惹かれたかは明確ではない……?

前巻の東雲無双はなりを潜めて、今巻では新キャラ喜多川が活躍します。眠れる獅子・東雲を叩き起こす役割を担わされた悲劇のキャラですが、この喜多川がまた対照的な人間なんですね。喋れる、妙な自意識もない、相手の懐にはスパッと入っていける。コミュニケーション能力は圧倒的に高いし、クラスの中心にいるタイプ。

主人公は喜多川に告白されつつも最後は東雲を選ぶわけですが、これって別に、東雲と最初に出会ってなければ喜多川と付き合ってたんじゃないの?という気はしないでもないです。

まあタイミング的に主人公を救ったのは東雲ですから、それだけで十分ですし、それが巡り合わせってもんかもしれませんが、何となくジレンマを感じます。

東雲が唯一の存在なんだ!だから主人公は東雲を選ばざるを得ないんだ!ってあんまり言い過ぎると、運命っぽくなってそれはそれで現実感を喪失して納得から離れていきますし。

これはどうしたらいいんでしょうね……少しテーマとして追ってみたいと思います。


余談ですが価値観を見失っていた主人公が、東雲との共同幻想を築くことによって現実との接点を取り戻して(=価値体系を手に入れて)、昔はただ億劫だったのに、今はネタにはしゃいで乗っていけるくらいになった、という主人公の変化は個人的には納得です。主人公には東雲に好きになってもらいたいという動機ができましたから、そりゃあ世界が輝いて見えるでしょう。

エンターテイメントよりは、若干主人公の成長に比重が移ってきたような気がする第二巻。3巻は唯一性の確認の話になるんでしょうか。今から楽しみです。