東雲侑子とラ・のべつまくなしから恋愛小説のスピードを考える

東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる (ファミ通文庫)

東雲侑子は恋愛小説をあいしはじめる (ファミ通文庫)

ラ・のべつまくなし 3 (ガガガ文庫)

ラ・のべつまくなし 3 (ガガガ文庫)

・似ているようでぜんぜん違う

上に挙げた二つの小説は、構成や展開・人の配置が極めて似ているにも関わらず、感じる印象が全く違います。

確かにキャラの書き方からしてぜんぜん違うのですが、ではなぜその書き方にも差が出たのか、それが感じる印象とどう関係があるのか。

その辺を考えていた時に、小説は展開にスピードという要素がある、と恥ずかしながら最近気づきました。この要素を含めて考えることはできないかと思って、ちょっとやってみました。


・スピードは何で決まるか

では展開のスピードとは何で決まるのか。単純に考えれば、

・出来事に対する描写の密度
いつ、どこで、だれが、なぜ、どれくらい、なにをしたかという奴です。一つの出来事に対してこれが細かく描写されているほど展開は遅くなります。6つの要素のどれが増えても遅くなりますが、最も効果があるのは「誰が」で、登場人物が多くなると展開が非常に遅くなると思います。週刊連載の長編漫画みたいな。

・内省の多さ
視点の主がどの程度考えるかです。一人称だとこれが多くなることが原因で、展開が遅くなる傾向があります。西尾維新の小説はこの傾向が顕著です。

この二つかと思います。まだなんかありそうですが、暫定。

当たり前ですが、展開が速ければ良いわけではないし、逆に遅ければ良いわけでもありません。


・ジャンルによる最適なスピードの違い

東京レイヴンズ』を読んだ時に、この小説は非常に展開の速い小説だ、と感じました。

まず、登場人物がほとんど5人しか出てきません。さほど少なくもありませんが、多くもないと思います。

三人称ですし、矢継ぎ早に出来事が起こるため、内省はかなり少ない。そして何より誰がどこで何をしているか、かなりの情報を省いているので、一つの出来事についての描写がかなり抑えられています。

その結果として、非常にスピード感のある展開となり、ぐいぐい引っ張られて気がつけば終わっているような小説に仕上がっていると思います。

この小説においては、このスピードがよく合っていると思いました。展開が速いとエンターテイメント性が高くなるように感じるからです。

内省が多くなると基本的には視点の主は悩んでいるので、フラストレーションがたまりますから。


・展開が速いのはエンターテイメント、今回の二つは……?

翻って、今回対象にした恋愛小説です。

この場合どっちがいいのかというのが一概に言えるかは分かりませんが、私としては扱うテーマを考えた時、『東雲侑子』に対し『ラ・のべつまくなし』はスピード感がありすぎて、エンターテイメント性が強すぎるように感じました。

決して悪いことではないのですが、主人公の悩みに共感し、一緒に気づきを得るスタイルを取ってスピードを落とした東雲の方が、よりテーマ性が強く感じられるものになっていたと思います。テーマ性=読者の成長を促すものという意味で、じっくり描いた方が納得感が強いのだと思います。ここはトレードオフかもしれません。

まあ、『ラ・のべつまくなし』については、主人公の小説を書く動機について多くのページを割いているため、単純に比較できるわけではないのですが……

恋愛要素を取り出して考えた場合、と言う場合の話であることを述べておきたいと思います。

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小説の展開の、スピード感による印象の違いについて考えました。

速いとエンターテイメント性が高く、遅いと成長に重点を置いた話になると考えました。

なにぶん例が少なすぎるので、もう少しこの仮説を意識してたくさん読んでみる必要がありそうです。