引きこもりの彼女は神なのです 6 理路整然とした面白さ

ひきこもりの彼女は神なのです。 6 (HJ文庫)

ひきこもりの彼女は神なのです。 6 (HJ文庫)

・表紙詐欺(いい意味で)

この表紙で、実は陰謀を張り巡らし、生死をかけたバトルが繰り広げられるって。

確かに日常パートは結構あって、それと非日常パートのギャップはこのシリーズの魅力であるのは確かだと思いますが……損しているんだか得しているんだかよく分かりません。

ともかくもシリーズ6巻。安定の面白さです。

人々の信仰が薄れ、力を失った神々は人間との共生を試みる。神話というと『カンピオーネ!』がありますが、あちらは頂上決戦バトルと神話の知的ミステリっぽいテイストに活用されていますが、『ひきこもり』はもっぱら「人ではない」ことに焦点が当たっています。

感覚が人と違う、考え方が人と違う、能力が人と違う。それでも共生していくことはできるのか?というのは常に基調低音として物語の根底にあります。

スクランブルウィザード』の頃からそうですが、この作者の方は、1冊で完結する小粒な話の裏で大きな話が少しずつ動いていく話が多いです。そのため、一冊読むとそれなりに満足感があります。

ただ若干もどかしいというか、物足りないと言うか……その辺のバランスはジレンマがありそうですが。大きな話が始まって、何冊も完結しないと先が気になってイライラしますしね。その点、『氷結境界のエデン』なんかとは似たところがあります。


・有能な主人公とエンターテイメントは相性が良い

シリーズの特徴として、主人公が比較的できる男のため、話のレベルがある程度担保されることがあります。

日常パートにおいては家事全般を能率よくこなし、バトルパートでは全力で強敵に立ち向かう。知恵もある。まさにエンターテイメント、と言ってよいと思います。毎巻対象となっているキャラがいて、主人公が彼の屈託を敵ごとぶち殺すという安定の形式美です。

典型的なヒーローものなんてだいたいこの構造だと思いますし。まあヒーローものだと、日常パートは案外ダメダメで、そこにまたギャップが……なんてこともありそうですが。

バトルが何をしているのかよく分かるのは、主人公が全力を尽くしているのが伝わってくるので、大きな長所だと思います。小説だと何してるのか分からんがとにかく頑張れ!という事も少なくないので……

あとだいたい一つは最後にひっくり返してくれるサプライズが楽しいです。ミステリ的な面白さなのですが、納得と主人公が解決する充足感のハイブリッドとでもいいましょうか。


・ロジカルに狂っている

もう一つ特徴として、登場人物がとてもロジカルに構成されています。

こういう経緯からこういう屈託ができて、といった具合です。「最初からそういう人間なんだからしょうがない」的な人物はあんまりいなかったような……。

とにかくその点がとてもロジカルなため、狂っている登場人物もロジカルに狂っています。なぜそうなったかは分かるが何を言っているのかは分からないというか。理論値がそのまま実測値としてでてきちゃった!的な。理系の人ならこの感じ分かってもらえるはず。

どうなんでしょう。納得感はありますが、違和感も残ります。少なからず、誰でもロジックで説明できない部分が少なからずあるからだと思いますが、別にそれを小説に反映しなければいけないわけでもないですし。

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そんなわけで、きっちりエンターテイメントしながらテーマ性もあり、納得感もある、安定の良シリーズだと思います。

物語におけるキャラクターの人格形成は……宿題にします。