@HOME 我が家の姉は暴君です。 家族という幻想を取り戻そうとする試み

@HOME 我が家の姉は暴君です。 (電撃文庫)

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・擬似家族で日常系

事故で両親が亡くなった。新しい家族は7人家族、しかし全員血は繋がっていない赤の他人!?

私はこの設定を聞くと真っ先に『家族計画』を思い出してしまうが、同じ方向を志している点でこの連想はそう間違いではないと思う。出来についてはまだ未知数でも、少なくとも向こうと違ってこっちはラノベらしく適度にやさしい世界なので(今のところ)、安心して読める。

テーマとしては『偽物語』あたりも近いものを扱っている。この辺をテーマ読みする人はあまりいないかもしれないが、気が向けば当たってみるのもいいかもしれない。

テーマ性が強い点を除けば、概ね日常系と言ってよいと思う。ただ主要キャラでもまだあまり描かれていない人物がいるくらい、まだまだプロローグといったところなので、ここから家族を救済する形の話になることもあり得る。今後の展開次第かもしれない。


・家族という幻想を築くために

本書のテーマは「家族ってどういうもの?」だ。タイトルで「幻想」と言ったのはいつも通り別に悪い意味ではなくて、「価値観」とか「観念」と置きかえてもらっても構わない。

本来家族とは、子孫を残していくために作られたシステムである。何故システムが必要か、とこの辺の話は岸田秀先生の『ものぐさ精神分析』における「なんのために親は子を育てるか」という辺りを参照してもらうことが望ましいが、端的に言えば「動物と違って人間は本能に育児が組み込まれていない挙句に負担があまりに膨大であるため、何とか合理化して子供を育てるように仕向けなければならないから」だそうだ。

では、そのためには家族はどんな存在で「なければならない」か?

少なくとも、子供を育てることについて親が納得できるような価値観が必要になる。それは例えば前述の本から持ってくれば、かつては母親は無条件で子を愛すると言うような母性愛であったり、父親は自分の血と仕事を受け継がせるための跡継ぎの育成であったりした。

しかし今は、母性愛はまだかろうじて観念としては残っているが、ネグレクトや虐待などを必死に異常だ悪だとバッシングすることで何とか成立している程度で、子は父の仕事を受け継ぐことはない。

遺伝子のつながりから家族を確かめる向きもあるが、別に遺伝子が繋がっていようが他人であることに変わりはない。

ならば、一体家族とは何か?どういう存在なら親は子を見捨てずに育てることができるか?また、子は見捨てずに親の面倒を見れるか?

こうした家族像を、逆に赤の他人である7人が自覚的に作り出そうとすることで、はっきりと浮かび上がらせようという試みだと思う。

本書においては、家族を全ての障壁のない特別な存在に位置づけようとしているように、現在のところは感じる。しかし、その理由については説明されず、「家族だから、当たり前でしょう」という方向性を取っている。ロジックである必要はないが、何らかの根拠が今後提示される必要はあるだろう。

この辺についてうまくストーリーで説明するのか、ロジックを持ってくるかは今後ポイントになるのではないかと思う。

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ずいぶんたくさん巻数が出ているので、どういう風に展開したか気になります。ぜんぜん違っても、まあ、ドンマイってことで。<評価>
日常系★★★
親愛★★★