ウェブで政治を動かす! 「この国をあきらめてしまう前に、僕たちができること」

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)

ウェブで政治を動かす! (朝日新書)

・政治を諦めている人への処方箋

私はTPPとか、消費増税とか、他人事ではない政策についてある程度興味がある一方で、TVでよくやる政治のニュースはぜんぜん見ない。誰の発言がどうだ、野党が解散を迫っている、とか本当にどうでもいいことばかり言っているように思えるし、政策の話をしていても一向に信用できない。

そんな気持ちに対し、本書は深く理解を示してくれる。端的に言えば以下の文辺りだ。

(前略)こうした政局中心の報道は「政策」に興味がある人間にとってはクソつまらないものでしかない。

P.5

私は民主主義の国で生きているからして、有権者である以上、政治家が何も決められないのも、国が外交で愚かな対応をするのも、結局は自分の責任だと思っている。私が動けば世の中が変わるというわけでは全くなくて、少なくともそれらに対し文句を言える立場ではないという意味でだ。

しかし一方で、いくら選挙で投票しても、自分の意見が反映されるとは到底思えない。何千万分の1なのだから当然だ。だからと言って何をしたらいいのかも分からない。

結局は黙って見ているほかないのか、と半ば諦めるようになった。

しかし本書は、そうでもない、と言う。


・少なくとも自分が政治に(政策に)関心を持っていることは無駄ではないということ

本書においては細かな具体例の積み重ねによって、インターネットが政治にどのような影響を与えてきたかを慎重に検討していく。それは情報の伝わり方と言った根本的なところから始まり、具体的なサービスやサイトでの出来事にまで及ぶ。特にTwitterユーストリームYOUTUBEなどについては詳しい。

その中には著作権の問題やアラブの春、インターネットを活用する政治家たちの経験談などの成功例も多い。

しかし一方でその効果は、日本の遅れた現状の制度では限定的である、ともしている。

加えて、具体的にこうすればいい、と言うようなハウツーについてはあまり言及しない。例えば、このSNSでどうこうするとなんとか、とかそういう事については、具体例は豊富だが、読者の取るべき行動については特に触れない。そのため、一見しただけでは結局どうすればいいのか戸惑うようなこともあるかもしれない。

しかし重要なのは、本書を読むことによって、少なくとも政治に関わろうとすることは無駄ではない、と思えることだ。

デジタルに親和性のある世代であれば、知識や技術などは、多分その気になればすぐ身につくだろう。上に挙がっているサービスなど、だいたいの人にとっては既知のもののはずだ。

問題は「その気になるか」である。いくらそれらについて知っていても、そもそも政治(政策)について何らかの意義があると知って活用しようという気にならなければ仕方がない。

本書はこのもっとも肝心な点について、前述のとおり、多くの実例を踏まえながら説明していくことによって、関心を取り戻させてくれるように思う。少なくとも影響力がないわけではないのだ、と言うことを教えてくれる。これは私にとっては非常に新鮮なことだった。

あまり褒めすぎると回し者っぽいので改めて言っておくと、本書は読んだからってすぐさま影響力を振るえるようになるようなものでは決してないということだ。まあそんなことができたら民主主義でもなんでもないが……とにかく、そういう意味では本書の宣伝には多少の煽りを感じる。それに、現状ではやはりウェブの効力は限定的にとどまっているように感じる。

しかしそれでも、帯の「この国をあきらめてしまう前に、僕たちができること」という文句には偽りはないと思った。

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くどいほど本文中で言っていますが、政治に対し無力感から関心をなくしている人こそ読むといい本だと思いました。内容的には多少身内(?)からの引用が多いような印象を受けなくもないですが、あくまで冷静な視点を保ちながら事実に基づいて考えていくので、特に気になりません。文句なくおすすめです。