ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミンII 今度こそ続…

※2節目以降ネタバレ

・ままならなさがリアリティ全開の戦記ファンタジー

どこかラノベ気分の私たちを待ち受けていたものは、想像以上に過酷で壮絶な―そう、本物の戦場だった…。

本書の紹介をパクれば、だいたいこんな感じになる第2巻。

相変わらず充実した内容だし、私としてはかなり面白く読んだのだが、いかんせんハードすぎて今後続いていくかどうかが心配だ。

この方の作品は今まで2連続で打ち切りを食らっていた。私は好み直撃なので全て買っていたのだが、いかんせん志向がニッチすぎたらしい。

しかし本作はそのポップさからか、時期的に1巻しかカウントされてないにも関わらず、このラノ13位と大躍進。重版もかかり、一見して波に乗ったかに見える。少なくともこの勢いで2巻は絶対売れるので、3巻は出る。出るが、それが売れるかどうか……勝負どころかもしれない。

本作者の特徴として、リアリティを重視するあまりエンタメ要素がしばしばおざなりにされるところがある。この辺が、果たしてラノベ読者に受け入れられるのかが大きな不安要素だ。以下で詳しく見ていきたい。


・エンタメとリアリティのトレードオフ

本作品における軍隊の描写は太平洋戦争時の日本軍を髣髴とさせる。というか、モデルがその辺にありそうな気がする。ようするにそれくらい馬鹿みたいな戦争をするということだ。

主人公たちは准尉、つまり現状では尉官階級でもないのだから、当然だが、戦略について影響を与えることができない。

そのせいで、主人公たちは明らかに大儀のない戦争に駆り出され、自国の罪もないような人間を大量に殺す羽目になる。大儀のないどころか、明らかに主人公サイドに非がある以上、虐殺に近い。

もちろん主人公は反戦派だし、自分の行動を正当化したりもしない。またこんなことが許されるのか……というように、変に自虐的になったりもしない。元々軍人を志望していなかったという出自のとおり、極めてフラットに事態に当たる。この点は多少の救いにはなる。

しかしこの流れを先導しているのが、無能かつ愚かなトップという辺りはまたやるせない。無能なトップに振り回され、下っ端が割を食うのは、別に戦争でなくてもこんなことは現実ではよくあるし、当たり前だから非常にリアリティはあるのだが、だからと言って気持ちのいいものではない。

さらにこれが問題であるのは、主人公の見せ場として局地戦における戦術的な勝利があるのに、勝っても全く爽快ではないからだ。

好感の持てる登場人物が死んでいく点も、戦争だから当たり前だし、厳しさを表現する意味では避けて通れないのだろうが、辛いことに変わりはない。

主人公がマクロに影響力を与えることができない以上、リアリティを出すためにはこうならざるを得ないのだろうが、果たしてエンタメとしてライトノベラーがついてくるかが心配だ。


ほかのファンタジーで似たようなこと(戦記もの)をやっていながら、エンタメとリアリティのバランスを取る場合、主人公を王族や、もしくはそれに近しい存在にする方法がよく採られる。

デルフィニア戦記』『アルスラーン戦記』『空の鐘の響く惑星で』などの戦記ものの傑作は、いずれもそうした形を採用している。

これは、そうすることで

1.王族としてのあるべき姿を通して、誇り高い、思わず目指したくなるような理想像としての人間を描くことができる
2.世界観や人間にリアリティを持たせても、マクロに影響力を持つ立場から、エンタメ性とのバランスが取りやすい

といった、エンタメとしては非常に大きな利点を享受できるからだと考えられる。というより、エンタメ性とリアリティの両立を志向すると、自然とこうなると考えるほうが自然かもしれない。

又はマクロを維持したまま、主人公がほとんど完全にそれに影響力を持たないというパターンでの傑作は、『流血女神伝』がある。この場合、完全に個人に焦点を当てることで、そもそもマクロに影響を与えられるという前提がなくなるため、この点にフラストレーションを感じることをなくしている。

本作は、それらのエンタメに配慮した要素をほとんど採用しなかったために、『二つの祖国』のような非常にリアルな戦争もの(こちらはかなりの部分を実話から持ってきているだけあって、過酷さがさらに段違いだが……)の理不尽さを体現する形になっている。


一応本作にも、王族としての伏線はないではないのだが、いかんせん12歳ではほとんど権力もなく、今巻でも早々に離脱してしまい、マクロに影響力を与えるにはいたっていない。

うまいこと突き抜けた人気を獲得してくれればいいが……

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繰り返しになりますが、私はこの作品はとても面白いと思っています。キャラはとても立っているし、「現場で戦う人間」を非常によく描けていると思います。

なので、本当に完結まで何とかたどり着いて欲しいです。せめて新刊を買って応援しながら待ちたいと思います。