覇剣の皇姫アルティーナ アルデラミンと好対照

覇剣の皇姫アルティーナ (ファミ通文庫)

覇剣の皇姫アルティーナ (ファミ通文庫)

・これはこれでアリかもしれないが……

本作についてまず言いたいのは、「どうしてこの世界観にしてしまったのか」という点だろう。

登場人物の台詞・性格が世界観にあまりにそぐわないのだ。リベラルすぎる。

皇帝がいるような身分制のある時代の、それも軍隊で、軽快に冗談を振りまく侍従、自分の思想を滔々と語る文官、それにやり込められるような将軍。

会話が軽妙なのは時としては武器になるが、本作は逆に、一体どんな世界だと思って読めばいいのか分からなかった。戦争や紛争、小競り合いが日常的に起こる最前線にしてはあまりに深刻な気配が無い(日夜戦って仲間が死んでいっているのではないだろうか?あるいは、山賊が出るならばそれに被害があっている中でそんな楽な気分でいるのだろうか?どちらにしても解せない)。

私は決してその時代について詳しいわけではないので、実際とのギャップがどの程度か詳細に述べることはできないが、上記のような不具合を感じることから、フィクションとしても無理があるように思える。

単純に会話が軽妙ということであれば、『天鏡のアルデラミン』も同じことが言える。しかし、アルデラミンには非情とも言えるほどのリアリティがある。単純に人間理解の問題なのか、細部の積み重ねなのか分からないが、ちょうど同時期に読んだので、この比較は興味深かった。

本作の雰囲気や描写それ自体が決して悪いわけではないと思う。しかし、それならそれで戦争が頻発するような殺伐とした世界ではなく、ファンタジーでも現代と生活水準がそう変わらないレベルまで上げてしまうとか、権力と無縁の人物配置にするとか、ゆるい雰囲気が気にならないようにする世界観にする必要があったのではないかと思う。

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話としてはあまりお勧めできませんが、比較対象として目を通してみる手も…