エスケヱプ・スピヰド 意志と存在を見つけ出せ

エスケヱプ・スピヰド (電撃文庫)

エスケヱプ・スピヰド (電撃文庫)

※2節目以降ネタバレ

・堅実で良質なエンターテイメント

2012年の電撃小説大賞「大賞」受賞作。

どのような評価を受けているのかわからないが、大賞を飾るにふさわしい、面白い作品だと思う。とにかく堅実で良質なエンターテイメントだ。

表紙の印象を裏切らない程度に硬い内容と、テーマ性の強さが多少人を選ぶかもしれない。ただテーマ性はあくまで物語が主体なので、気にするほどではない。

出だしはやや散発的で低調な印象を受けたが、キャラが回り始めてから一気に面白くなった。ラノベにしては少し固めな文章も、慣れてくると情報密度の濃さが心地よくなってくる。言ってしまえば巧いのだと思う。

タイトルは読み終わった今もよくわからないが、帯の推薦文であった高橋弥七郎氏の「意志(おもい)と存在(いのち)を見つけ出せ」という煽り文句は実によくできていると感じた。

内容としては前述の通りわりと硬派で、そういった類のセンスで構成されているわけでは全くない。しかし、その無理やりな読ませ方にピンとくる人が好きそうなテーマなのだ。

そのテーマも特に真新しいものではないので、「古き良き」という印象は多少あるかもしれないが、個人的にはこういう作品が出てくると嬉しく思う。


・役割がなくなったら、私たちは何をするのか

本書のテーマは明快だ。曰く、「役割がなくなったら、私たちはどうするのか」だ。

私たちは日常、自分の意志とは関係なく、お仕着せの「やるべきこと」を課せられていることがとても多い。社会及び周囲が割り振る「役割」に従った行動を要求されるからだ。

学生であれば勉強することであったり、もっと言えば「その生活を謳歌すること」であったりする。社会人になればまた変わるし、家庭でも持てばさらにその顔に応じてと、とにかくがんじがらめにされがちだ。それらは状況から否応なく降ってくる。

己を殺して役割に準ずる姿は、尊く感じることもある。しかしそれでいいのだろうか。

本書の主人公たちも、「役割」を懸命にこなしている。しかし、懸命になるあまり自分を抑圧するほどになり、そのうちだんだんとその役割に依存するようになっていく。

そしていつしか、自分の意志がどこにあるのか分からなくなる。やるべきことだからやっているのか、やりたいからやっているのか。

本書では「兵器」というもっとも強力かつシンプルな目的を持つ役割を与えることで、その「やるべきこと」と「やりたいこと」の違いを明確にしていく。

最終的に九曜がやっていること(=戦い)は、やるべきことと行動自体は変わらない。変わっているのは動機だ。あくまで「やるべき」として取り組むのではなく、やるべきことでも「やりたいこと」としてとらえなおして取り組むことを主張する。

役割に準ずるのではなく、役割を受け入れ、全うする決意をすること。それをやりたいこととして自分で納得し、自分の責任で取り組むこと。

言葉で言うのは簡単だが、実行するのは難しい。しかしその大切さの一端を、本書は教えてくれるように思う。

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なんか後半は適当なことを言った気がしなくもないです。さりげなく自分の意見とか混ざってないか心配ですね。それにしても面白かったです。