現象学は物語の面白さを定義しうる……かも

・面白さの定義に新たな視点、あるいは定量化の問題?

最近更新が少しラノベから離れていたのは、この本をちまちま読んでいるからです。

現象学入門 (NHKブックス)

現象学入門 (NHKブックス)

タイトルに現象学と入れてはいますが、私は原書に触れたことはありません。ので、あくまで竹田氏の解釈をここではそのまま現象学としますが、これが実に刺激的で面白いんです。

哲学というと敷居が高そうですけど、我々の実存的な悩みをもっとも論理的に突き詰めて考えようとするのがようするに哲学だと思っています。だからとても身近なんです、とかまあその辺の講釈は↓に譲るとして。

「自分」を生きるための思想入門 (ちくま文庫)

「自分」を生きるための思想入門 (ちくま文庫)

まあ私はほとんど入門しかしてないにわかですが……ともかく。

何が言いたいかというと、我々の実存に関する問題、つまり「面白さ」に直接関わる問題に対して非常に興味深いアプローチを取っているので、評価するときに使えるんじゃないか?と思ったわけです。


・客観−主観の問題の超克へ

以下大雑把に現象学について説明しますが、本家から2代離れた「孫」の、つまり二人の人間を通した説明であることを差し引いて(特に私を通したときの劣化が著しいので)適当に見といてください。

現象学の目的は、つまるところ「人は何のために生きるのか」という究極の問いへ答えを返すことにあります。まあ哲学の存在自体、これが大目的であるような気はしますけど。

「客観的な視点」という存在が信じられなくなったとき、比較的まとまっていた意味の体系というのが崩壊してしまいました。「私が現実を生きている」とか「私の目の前にりんごがある」という実在が論理的に証明できないからです。ニーチェ先生マジぱねえっす。

しかしそうすると他人の存在も消失してしまいますし、世界も意味をなくしてしまいますし、連鎖的に人の生きる意味というのもなくなってしまうんですね。世界にまとまった意味の体系がないんだから、そりゃそうです。人にとって「良いもの」はなにか、とかいう質問に論理的に答えることができなくなったんです。

ただニーチェは非常にマッチョイズムな考え方の人だったので、みんなに共有されうるような価値体系を描き出すことには失敗しました。私はニーチェの考え方けっこう好きですが、それはどうでもいい。


そこでフッサール現象学の提唱者は考えました。確かに客観性を打ち立てることはできなかった。よろしい、ならば主観からだけで、論理を用いて世界をもう一度体系付けようと。

まあ今現在にいたるまでこの問いに答えを出せた人はいませんので、このフッサールもその方法を提示したに過ぎず、価値体系を築くことはできなかったのかもしれませんが……


・疑いえないのは自分が「直観する」ということ

まずフッサールは客観とかワケわかんないことを言うのをやめました。

そして還元=デカルトの方法的懐疑(例えば、このりんごは本当にりんごか?また本当に存在するのか?とか)みたいなものを用いて当たり前に感じているものをどんどん疑っていきます。

疑っていったとき、デカルトは「考える自分がいることだけは疑いようがない」といって、そこから神=客観の証明に入って破綻してしまいますが、フッサールはその轍は踏みません。

全てを疑っていったとき、例えばりんごの例で言えば、「私がそこにりんごが「ある」と直観すること」だけは疑う余地なく成立するというのです。

いつまで経っても終わらないので過程を飛ばすと、全てをこの直観から築きなおして世界の意味体系を作れないか、という提案のようです(超大雑把)。


・意味の体系はすなわち「面白さ」

私が今まで進めてきた欲望論というのは、つまるところ「人にとって、面白いとはどういうことか」というのを考えたものでした。

これは人間の欲望を原点とするという意味で非常に元始的で、ここが根元で問題ないと思います。自己拡大、自己放棄などの人間の「性格」とも言うべきものは今でも疑っていません。

しかし、その人間がなぜ今のような意味体系を作り上げたかを現象学の視点から解析することで、欲望がどのように社会において発露し、解釈されるのか、違う視点で見ることができるのでは?と思ったからです。物語において世界観の分解とか。

もちろん欲望論というのは精神分析論、つまり集団の行動から着想を得たものですので、集団に当てはめてももちろん成立するものですが、「なぜ、共同幻想がそのような形に成立したのか」という点とかにも使えるのでは?と思っています。

とういか要するに人が自明なこととして意味を考えているものに対して、それを新たに体系付けることができるのではないか、という試みということでしょうか。

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まあ、あまりにも嬉しくなって反射的にべらべら書いているだけですので、ぜんぜんうまくいかないというかそもそも間違っている可能性も大ですが。

そうだとしても現象学のアプローチは非常に面白い!ので、単純に視点としてもオススメです。