エスケヱプ・スピヰド3 構造がシンプルすぎるかも…?

※2節目以降ネタバレ

・ハイスピードバトル・エンターテイメント

相変わらず、手堅く良質なエンターテイメントとなっている。概要は例のごとく前巻の感想などを参照されたい。

最近の巻は、今時珍しい少年漫画のようなストレートさが売りと言えそう。話としてもシンプルで分かりやすい。

ただ、1巻の頃からすると、やはり少しテーマ性が弱いように見える。敵方の動機が少し物足りないからかもしれない。

・亡霊と二極対立

今巻から登場する敵方のボスは、ただ「戦いを終わらせない」というスタンスである辺り、さほど重要なテーマを持っていない。

背後に控える存在を予感させる描写があった気がするので、この後もう少し複雑な動機を持つ敵が登場するかもしれない。ただ現状では、単純な2勢力の対立を描くだけに留まっている。

基本的に主人公がいると、だいたいは主人公の所属する組織が善≒正義にならざるを得ないので、話がどうしてもシンプルになってしまう。1巻のように、個人の動機をしっかり描く目的であれば問題ないが、組織を描くと、話がシンプルであることが少し物足りなく感じる。

二勢力の対立から漁夫の利を得ようとしたり、敵の勢力の中にも違う目的を持った人物などが現れるとだいぶ変わってくるのではないかと思う。そのあたりを次巻には期待したい。

                                                      • -

まあなんだかんだ安定して面白いですし、特にロボット関連の描写は随所に光る所があるので、引き続き追っていきたいと思います。

Fate/Apocrypha (書籍) 広がり続けるFateの世界

Fate/Apocrypha (書籍)

Fate/Apocrypha (書籍)

・Ifなのか?重ならない世界で描かれる聖杯「大戦」

本書の位置づけをFateをなにも知らない人に説明するのは非常に困難なので、あくまで前提としてFateの知識を持っている人に向けて紹介したい。だいいち、本書から入る人がいるとも思えない。

本書は本編でも前日譚でもなく、少なくとも違う軸における世界の話を描いている。よって、魔術や聖杯戦争以外のつながりはさほどない。今回はFate/Zeroのような世界観の広がりを楽しむというよりは、設定を使った新たな形の物語を楽しむような方向性だ。

今度はなんとサーヴァントが14人になり、7対7で「大戦」を繰り広げることになる。さすがにキャラクターが増えすぎて薄味になりはしないかと恐れていたが、どうも無用の心配だったように思える。さすがに本編ほどメジャーな英霊がそろっているわけではないが、キャラクターとしての魅力は劣るものではない。

また、全員が聖杯を狙っているだけあって、素直に2つに分かれて激突とはいかない。この辺の一筋縄ではいかないところが面白い。

まあ東出祐一郎氏はかの傑作『あやかしびと』のシナリオを描いているわけで、安心して読んでもらえばいいと思う。

こうした外伝を読んでいて思うのは、あとがきで作者の方も触れていたことだが、みんな実に楽しそうにこの世界を書いているな、ということだ。世界観のブレなさや、設定の使い方からひしひしと伝わってくる。

クリエイター側に愛されているミックス作品というのはまず外れないような気がするので、楽しみにしつつ今後も追っていきたいと思う。

                                          • -

一巻だとまだ内容について書けることがほとんどないですね…。

僕らはどこにも開かない MW文庫の先駆け

僕らはどこにも開かない (電撃文庫)

僕らはどこにも開かない (電撃文庫)

・イラストなし、悪辣な表現過多の問題作

本書は8年前に電撃文庫から刊行された。この表紙からも分かるとおり、なかなかの問題作だ。

内容からしライトノベルらしくないし、どこを探してもイラスト一つない。

現在でこそMW文庫という受け皿があるが、当時これが電撃から出版されたのはやはり驚くべきことだと思う。

ざっくりジャンル分けすれば学園もの+サスペンスという所だが、閉塞感の中での病んだ内面描写や、全くファンタジーではないにも関わらず「魔法」や「電波」などの概念を扱う人の存在がこの小説を異質なものにしている。

読み味としては西尾維新に近いが、西尾維新はメタ的に狂った人を描写するのに対し、こちらは真摯に狂った人を描写するので、よりいたたまれなさが強いように思う。

しかし以外にも読後感はさわやかなので、そう間口が狭いとも思わない。少し尖った話がほしいなら、一度読んでみることを薦めたい。


・僕らはどこにも開かないのか?

私たちは他者のことを真の意味で理解することは絶対にできない。少なくとも今のところは。

推測することはできるし、それが当たっていることもあるだろう。分かりやすく顔に出ていることだってある。しかし、それが他人である限り、数ある可能性から一つに「確定」させることは不可能なのだ。

まさに「僕らはどこにも開かない」。

ならば、他人とのコミュニケーションは不可能なのか。結局推測の中で一方通行を繰り返すことしかできないのか。

本書はその答えを探す試みでもある。

                                    • -

本書はテーマ性が強いですが、あとがきで作者の方が言うようにキャラクター主体で読んでもいいのかなとも思います。単純に話としても面白いので。

ぼちぼち再開します

あけましておめでとうございます(遅

年末年始という非常事態も終わりましたので、また再開したいと思います。

おかげさまでいない間に8万も超えたようで、ありがたいことです。

今年もよろしくお願いいたします。

朝顔 ヒカルが地球にいたころ……⑥ 男女の関係で恋愛以上のものはあるか?

※2節目ネタバレ

・超ハーレム…だがラブコメではない

光源氏のごとく多くの恋をしたヒカル。ヒカル亡き後、赤城是光はヒカルの幽霊に取りつかれてしまう。その願いを叶えるべく、ヒカルが生前交わした約束を果たしていくことになるが……

野村美月氏は『文学少女』でエンタメのコツを掴んだのか、以降の作品はかなり安定して面白い。それまでの作品が悪いというわけではないが、いかんせんニッチすぎた。

人間関係の中に伏線を張っておいて、最後にどんでん返しを持ってくる、というのは言うのは簡単だが、やはり芸とか技とか呼ぶべきものだと思う。

ミステリテイストを嫌う向きもあるかもしれないが、ミステリがかなり苦手な私でも問題なく楽しめるので、心配無用と言いたい。

ハーレムの加速具合に問題がないではないが、(だいたい一巻一人で増えていく…)それが好きな人もあるだろうし、悪いわけでもないので、やはりおススメと言えそうだ。


・朝ちゃんの目指したものは

今巻のメインヒロイン、朝ちゃんの望みに少し注目したい。

彼女はヒカルにとって唯一の存在になるために、恋はしないと言った。

なぜならみんなヒカルに恋をするが、ヒカルは全ての「花」に真摯に、平等に愛をささげるからだという。つまり、その中の一人になってしまっては、ヒカルにとって唯一の存在になれないからだ。

確かにヒカルを相手取る場合に、恋愛という関係にすると唯一の存在ではないのは確かだろう。代わりに、有用であること、信頼のおける並び立つ存在として、唯一の存在になろうとした。

しかし、人間の取り得る関係として、恋愛以上に強い結びつきはあるだろうか。

この場合、単純に人間関係を信頼という観点から見てもいい。人を信頼する場合には必ずある程度の定義づけが必要になる。「彼は〜の点では信頼できる」と言った風だ。この定義づけによって、友達だったり、嫌いなやつだったり、同志だったり、恋愛対象だったりする。

この定義づけにおいて、唯一の存在となることはできる。「彼女はもっとも私の意志について理解がある」などだ。

しかし、それでは恋愛の壁は越えられないように思う。何かで唯一というのは、基本的には相対的な評価であるのに対し、恋愛は自分の理想を相手に投影して、それを信頼することで成立する、いわば絶対的な評価だからだ。

替えのきかない存在として、どちらが優先されうるだろうか。私は恋愛だと思う。特に恋愛の信奉者でもないので、そんなに推したいわけではないのだが……ともかく。

ゆえに、彼女が恋をしないと言ったのは、葵が占めているポジションがどうしても自分のところに回ってこないことに対する諦めと、その代償行動だったのだ、という本人の結論にはとても納得できた。


・ヒロインを救う理由に妙あり

以前に詳しく触れたので手短にするが、やはり最大のポイントは、主人公の赤城はヒカルの願いを叶えるため、必要に迫られてどんどん女の子を救っていき、自然にハーレムを形成するという驚異の構造を持っていることだろう。

ハーレムを形成するのに、主人公が「女の子救っちゃう病」である必要がないのだ。そこには友情という理由があり、その「救ってしまう歪さ」というテーマを回避できる。

このことが、主人公の人格を自由にすると同時に、ヒロインをテンプレから外すことに成功している。

通常であれば、ヒロインをたくさん救ってハーレムを形成してしまうような主人公には、ある程度キャラに偏向がある。適当に何人か思い浮かべればお分かり頂けると思う。

その観点から言えば、系統としては呪いのせいで強制的にヒロインを救う話(『神のみぞ知るセカイ』とか)などに近い。しかしそこに加えて「ヒカル」という共通のものがヒロインと主人公の間にあるために、その関係性が一味異なってくる。このあたりが本シリーズを他にはないものとして際立たせている要素ではないかと思う。

                                      • -

少し間があくと、すぐに何を書いていいか分からなくなって困惑します……

2012年のライトノベル私的ランキングTOP10 ほか

少し早いかもしれませんが、今のうちにまとめておきたいと思います。何気にこのブログでやるのは初めてかもしれません。

「私が今年読んだラノベ」から選びますので、いつ出たかは特に問題にしないことにします。一応新しめのから選んでいると思います。今回は順位づけに労力を割いたので、紹介はなくてもいいくらい適当です。私がランキングを見るときに説明はあまり読まないからです。

再読が多かったため、読んだ数ははっきりしないのですが、母数は大体200冊くらいだと思います。

全体としては、エースが輝いたというよりは、エンタメとして手堅い作品が多く入ったかなという印象です。評価としても相当ダンゴで、頭一つ抜けたという感じでもないかもしれません。


10 ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー
★★★☆

ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー (電撃文庫)

ウィザード&ウォーリアー・ウィズ・マネー (電撃文庫)

最近のライトノベルでは割と珍しく、主人公がやさぐれている。わりと直球なエンタメ。こういう信頼などを描いた、直球なテーマは割と弱点。


9 子羊は迷わない
★★★☆

ミステリテイストと、独特なテンプレで話を引っ張る。キャラクターの動機や心情に一歩踏み込んだ描写が光る作品でもある。


8 ヒカルが地球にいたころ
★★★☆

毎巻一人ずつ救っていってハーレムが加速していくシリーズ。そろそろ修羅場すぎてヤバいが、ラストでひっくり返す安定感のおかげで安心して読める。


7 エスケヱプ・スピヰド
★★★★

今年の電撃大賞で大賞を受賞した作品。少し厚みのある描写と強いテーマ性が売りの、堅実で良質なエンターテイメント。


6 東京レイヴンズ
★★★★

東京レイヴンズ1  SHAMAN*CLAN (富士見ファンタジア文庫)

東京レイヴンズ1 SHAMAN*CLAN (富士見ファンタジア文庫)

アニメ化も決定して、今ノっているシリーズ。スロースターターという言葉の意味を否応なく理解させられる。6巻から一気に面白くなる不思議な作品。


5 東雲侑子シリーズ
★★★★

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

東雲侑子は短編小説をあいしている (ファミ通文庫)

個人的にはこれも珍しく男の子の恋愛を真っ当に書いた作品で、ヒロインの可愛さに悶える。完結巻はきれいに終わりすぎて少し不安になるが、1,2巻の評価でもこのくらい。


4 天鏡のアルデラミン
★★★★

個性的でポップなキャラクターを配置し、軽妙な会話と語り口で引っ張りながら、軍隊や戦争をアンバランスなほどリアルに描いた問題作。1巻はエンターテイメントだが、2巻から本気を出してくる。


3 輪環の魔導師
★★★★

輪環の魔導師―闇語りのアルカイン (電撃文庫)

輪環の魔導師―闇語りのアルカイン (電撃文庫)

もはや渡瀬節と呼びたい、独特なポップさを持つ異世界ファンタジー

ヒロインがヤンデレというとんでもないイロモノ要素を持ちながら、ストーリー自体は直球勝負という異色作。今年無事完結を迎えた。


2 烙印の紋章
★★★★

いち奴隷剣闘士だったオルバが、偽者の皇太子として立てられ、激動の戦乱期を戦い抜いていく英雄譚。
完結刊はやや駆け足だったかもしれないが、その盛り上がりと、きれいに完結した潔さに一票。


1 やはり俺の青春ラブコメは間違っている
★★★★

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (ガガガ文庫)

あまりにもぼっちの心情が赤裸々すぎて、読んでいると泣いて笑ってもだえ苦しむコメディ。ラブコメではない。自意識を暴き出す高いテーマ性も同時に持つ。



・オールタイムベスト+ラノベ以外の傑作

最後に、今年もたくさん読んだけど、あまりにも当然過ぎてランキングに入れられなかったものと、一般書籍なので入れられないけどこれは読んどけ的な作品を列挙します。

ソードアート・オンライン
★★★★★

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

ソードアート・オンライン1アインクラッド (電撃文庫)

さすがにもう説明不要か…。あとランキングに入れられない理由として、個人的には今年に読んだ作品ではないから。


化物語シリーズ
★★★★☆

化物語(上) (講談社BOX)

化物語(上) (講談社BOX)

同じく…


一般書籍編

獣の奏者
★★★★★

獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)

獣の奏者 1闘蛇編 (講談社文庫)

エリンさんマジぱねえっす。


天地明察
★★★★★

天地明察(上) (角川文庫)

天地明察(上) (角川文庫)

男たちの熱いロマン。


スロウハイツの神様
★★★★★

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

スロウハイツの神様(上) (講談社文庫)

奇跡も、魔法も、あるんだよ。いや魔法はないか。


悲鳴伝
★★★★

悲鳴伝 (講談社ノベルス)

悲鳴伝 (講談社ノベルス)

相変わらずメタメタしい。だがそれがいい

リア王
★★★★

リア王 (新潮文庫)

リア王 (新潮文庫)

福田訳がおススメ。すさまじい因果応報。

                                          • -

まあ、紹介が適当なのはAMAZONとか過去ログとかで賄ってもらうとして、こんなんでも何らかのお役に立てば幸いです。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている6 ぼっち無双

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (6) (ガガガ文庫)

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。 (6) (ガガガ文庫)

※2節目以降ネタバレ

・ぼっちを本気でエンターテイメントにする快作

アニメ化も決まった絶好調のシリーズ第6巻は学園祭。

とにかく読み口が軽い。軽快な1人称語りや、飛び交う会話のいいテンポに乗っているうちにあっという間に読めてしまうし、これでもかというパロディのギャグも個人的には刺さる。

それにもかかわらず自意識の暴き具合は尋常ではく、身悶えることも少なくない。冗談に昇華できていることにむしろ感心してしまう。手法としては『中二病でも恋したい!』に近いが、よりリアルな人間関係内でやられるので、結構こたえる。

主人公のぼっち力は『はがない』のようなやさしさを想像していると痛い目を見る。逆に『はがない』なんて結局ハーレムで物足りないという人は手に取ってみるといいかもしれない。

とはいえあくまでエンターテイメントなので、周囲のキャラや主人公の見る目が鋭い辺りでうまくバランスを取っている。本当にイタいだけの話を読みたい人は『人間失格』あたりが近いように聞いているので、そちらを薦めたい。


・八幡無双

この話の魅力は、「俺TUEEEEE!」というタイプと少し似ていると思う。

主人公の八幡は、過去に自意識が過剰であったがゆえに、そのせいで犯しうる失敗の多くをすでに経験している。このため、周りの高校生が幼く見えてしまうほど、ひときわ他人を冷静に見ることができるのだ。

その視点を持っているがゆえに、状況にに応じて適切な対応を取ることができる。彼はぼっちであるという私たちを安心させる要素を持ちながら、その類まれな観察力と実行力で私たちの欲望を満足させてくれる。

また彼がぼっちであることはさほど不可解ではない。他人に嫌われるといった理由ではなく、単純に彼の方から距離を取るからだ。このあたりを完璧にこなせない辺りが、八幡を人間らしくして、またぼっちに臨場感を与えていると思う。

それはともかく、特に今巻は八幡無双が顕著だったと思う。彼は実行委員長の自己正当化と欺瞞を暴き出して、衆目の元にさらけ出した。実に爽快だった。

ただ、普段私たちはこれらについて妥協しながら適当にやり過ごしているのだから、ことさら強調して暴露した主人公が敵視されるのは自然な流れでもありそうだ。一方でその結果を評価する人間がいることも確かだが。

                                      • -

いまいちまだ掴めていないような感じがします。個々の要素は何となく分かるのですが、総体として見たとき違う面ができているような。まあしばらく続くと思いますので、気長に考えます。

はがないを引き合いに出していますが、別にdisりたいわけでは決してありません。いつも腹抱えて笑ってますし。ただ傾向として少し似ていたので、比較の対象にしただけです。あしからず。