ソードアート・オンライン 面白さの全てが詰まっている
ソードアート・オンライン (9) アリシゼーション・ビギニング (電撃文庫)
- 作者: 川原礫,abec
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2012/02/10
- メディア: 文庫
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・問答無用で読めばいい
こういうレベルの小説を読むと、言葉を尽くす前に、もうとにかく読めよと言いたくなります。
凄まじく面白いです。私の面白さの測り方で最高傑作と言えるラノベの一つ。
アニメ化も始まりましたし、まだ読んでない人はもう少ないと思いますが、一応。
・至高のエンターテイメント
まず挙げられるのは、エンターテイメント性の高さです。
主人公キリトがかなり強キャラなので、ネット小説定番の無双モノなんだろと思う向きがあるかもしれませんし、確かに完全にはそれを否定できません。戦ってよし、考えてよし、しゃべってよし、と何か欠点あるのかって勢いですから。
しかし、本シリーズではキリト本人だけではどうにもできないマクロな世界(SAOというゲームの仕組み)があることや、周りのキャラや敵とのバランスの取り方によって無双モノ独特のチープさをほとんど感じなくなっていると思います。
またこのバランス感覚が突出して優れているおかげで、先の展開が見えにくくなっています。強すぎれば圧倒的に世界を主導できる立場になり、リアリティと緊張感を喪失します。弱すぎれば何の影響を与えることもできないため、話がミクロに集中してしまい、エンターテイメントとしては限定されたものになってしまいます。
ゆえに先の展開が見えないことによりストーリーに緊張感が生まれ、バトルも熱くなります。人は一回性がないと面白さを感じづらい。またバランスが優れていることでリアリティをうまく保っていると思います。
このように個人の拡大におけるエンターテイメントが非常に優れていることに加え、仲間との関係性も一因としてあげられます。別にアスナだけに限定してもいいんですが。
関係が美しいことに加えて、それが主人公の動機に直結していることが多分大事で、これにより「世界の命運をしょって立つ男」ではなく、「一人の人間を、仲間を守るために戦う男」になることで、より身近な感情を持ってバトルに移入することができるようになります……多分。少なくとも運命に選ばれた、とか、持てる者の義務だ、とか言うよりはよっぽど。
別に特別なことはしていないように感じるかもしれませんが、ハイレベルに達成されているのでそこに奇抜さはいらないのだと思います。
・ゲームというテーマ
SAOのシリーズで一貫しているのは、「ゲームだけど、もはやゲームではない」ということです。
そこには「果たしてゲームというものに「意味」はあるのか?」という問いがあるように思います。
ゲームと言うのは、確かに現実において、つまり社会的な意味において、価値のないことがほとんどです。シューティングゲームの最高難易度をクリアしたからと言って、なんかいいことあるの?と。
確かに現実ではないし、それを持ち込むことは無粋とされている。ただその媒体が仮想=実体のないものだから、そこで築いたものにも例外なく価値がないのか、というとそんなことはないだろうと。
これは本書においては単純に社会的な価値を見出すというわけではなく、社会的な有用性とは別の個人の生き方という軸において、どのように現実とリンクしうるか?ということです。
個人的には、これは現実偏重でも快楽主義的でもなく、非常にバランスの取れた切り口で素晴らしいと思います。
このテーマは繰り返し問い直され、キリトも現実において何度も試され、そのたびに打ちのめされながらも考え、仲間に支えられ、成長していきます。その結晶として『マザーズ・ロザリオ』があるように思います。
4部ではさらにとんでもないテーマを扱いますが……ともかく、エンターテイメントだけでなく確かなテーマ性を持った作品であるということです。
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このように、本作はエンターテイメントとして素晴らしい完成度を誇りながら、深いテーマ性を持った大傑作であると私は考えています。ストーリーがちゃんと先行しているのがいい。
万人にオススメです。合わなかったとしても、少なくともこのクオリティで合わないなら明確に方向性の問題ですから、参考にはなると思いますし。