旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。 こんなのやられたらストライクに決まってる
- 作者: 萬屋直人,方密
- 出版社/メーカー: メディアワークス
- 発売日: 2008/03/10
- メディア: 文庫
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・タイトルと表紙通りの期待を裏切らない作品
正しくタイトルのまんまの話と思っておけば間違いないです。
「喪失症」という原因不明の病気が世界中に蔓延し、感染したものは名前が消え、写真が消え、本人が色を失っていき、最終的には消えてしまう。
社会はほとんど崩壊し、世界はまさに滅び行く只中にあります。まさに終末期ものです。
主人公はこの喪失症にかかって名前を失った「少年」と「少女」。「世界の果て」という取りとめもない目的を目指して旅に出ます。
どうです、この設定。好きな人はたまらなく好きなんじゃないでしょうか。
終末期と聞いて阿鼻叫喚の地獄絵図を想像する方もいらっしゃるかもしれませんが、この小説はまあ表紙どおりの穏やかな話です。
・世界と個人が連続性を失うと社会的な価値観が消失する
この小説の最大のセールスポイントはここです(断言)。
まず、個人が連続性を失う=もうすぐ死ぬ状態になると、大体のことの意味がなくなります。勉強もそうだし、体を鍛えるのもそうですし、自分に対する投資全般が意味がなくなります。
社会が連続性を失うと、さらに多くのことに意味がなくなります。何かものを残そうにも残す相手がなく、貢献するべき相手もなくなるからです。
そうすると、個人としての純粋な自己拡大欲求がむき出しになって「意味とかそういうのはどうでもいい、やるんだ!」という状態になります。
私はこれが大好きなんです。社会貢献とか、有意義とか、権力、金、名誉とか、とにかくクソ食らえだ!と思っているので。この台詞を声を大にして主張したいがために、逆説的にそれらをある程度手に入れる必要があることを認識して力を注いではいますが……とにかく。
・例え明日世界が終わっても、自分が死んでも、それでも今やっていることを続けるか
この問いは常に自分に問いかけておくべきだと思うんですよね。
現実に社会で生きていかなければならない以上、続けない、と考えることをやらなければならないこともあると思います。一切を排除して何とかなる人間なんて、よほどいろんな意味で恵まれた人間だけですし。
だからって世の中に使い潰されてたまるかって話ですよ。
そりゃリスクを度外視すれば、「続けない」と考えた一切のことを放棄することもできます。できますが、そのリスクを犯すことが果たしてベストを尽くしたと言えるのか。なんてったって死んだら終わりですからね。
こう考えること自体も一つの言い訳に過ぎませんが、まあ、バランスじゃないですかね。絶対に死ぬことを避けなければならないか、というとそうでもないですし。
そんなスティーブ・ジョブズの金言にも匹敵するような助言を、この小説は何の気なしに与えてくれるのです。素晴らしい!
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話の出来としては、とりあえず要点は満たしている、という程度かもしれませんが(『SWAN SONG』などの超絶傑作には及ばない……)、そこまでショッキングではないですし、導入にはよいのではないでしょうか。