面白さを因数分解する

※追記しました。赤にしてあります。

・実用性のある分類を目指す

物語の「面白さ」について考えるようになってしばらく経ちました。この間適当に数打つうちに、ある程度自分の中で整理できてきたように思います。

そこで今回「面白さの要素表」の作成を試みました。

これのコンセプトは、「面白さを分類することで、マッチングを取りやすくすること」です。

普通にタグ付けして分類するのと何が違うの?というと、この分類は「面白さ」の分類であって、ジャンル等の分類ではない点です。

例えば、タグで「ファンタジー」「恋愛」「コメディ」って書いてあった場合、どんな話を想像するでしょうか。

けっこうもう何でもアリじゃないでしょうか。

これはこれで便利ではあるのですが、どうせなら自分なりの解釈を加えて使いやすくしたいと考えました。

もうひとつ重要なことがあります。というかこっちのが重要です。

それは、「全ての物語の面白さは、この表の要素に分解できる」言いかえれば「全ての物語の面白さは、この要素から構成される」ということです。

つまりどういうことか?要するにこれらの「どれかの項目があるだけ」で「面白い」といいうる、ということです。

まだまだ粗いですし、随時気づいたら更新していくタイプのものではありますが、現状でもある程度使いでがあると思いますので、よろしければお付き合いください。

・まずは全体図から

まずは全体図をご覧下さい。

図のクオリティについての苦情は受け付けません……

これを見て分かる人はもう十分だと思うのですが、さすがにそんな人は少ないと思うので、順に見ていきたいと思います。


・意外と大事な大分類

まずは頭の部分です。

たった2種類で大丈夫か?と思われるかもしれませんが、大丈夫です。面白さはこの2種類しかありません。むしろ人類の欲求はこの2種類に全て帰着できるというのが私の大前提です。

ただ、これだけではどう使ってよいやら分からないので、掘り下げて分類します。ちなみにこの部分はなにを言っているか分からなくてもこの要素表は使えますので、特に心配要りません。知りたい人は唯幻論でググって下さい。

なぜこんな分類を設けたかというと、そもそもこの二つで大別したとき、既に片方に興味のない人というのが存在するからです。

有用性とかを求める人には、何かしら右側(成長)で訴えるものがないと理解されづらいです。

反対に、単純にエンタメを求めるタイプの人には、そういった成長譚に付きまとう辛さを忌避する人が多いです。

ゆえに片側に寄っていたら、その時点で注意が必要!という意味で、この分類を設けました。


・エンタメはカテゴライズと同じように利用可

次にエンタメ部分について見ていきましょう。

ここでの大分類も、さっきと同じ意味を持ちます。どちらかに好みが寄っている場合が少なくないので、注意が必要です。

もうひとつ注意すべきなのは、これらは要素としては互いに背反ですが、同じ作品に複数の要素が同時に存在することはよくある(というかひとつしかないことがほとんどない)ことです。よって、これから挙げる例についても、あくまで「この要素が強い」という例であって、「この要素しかない」というわけではありません。

それでは、それぞれの分類の中にどんな項目があるか、ざっと見ていきましょう。

・擬似的な放棄欲求について

名前とか、その意味で分かればそれでいいのですが、そうでなければ中身でニュアンスをつかみましょう。

①恋愛モノ(a)
恋愛による関係の構築は、さすがに小分類が必要だろうということで少し分けました。恋愛モノの中でも、

(i)ハーレム(受動系)…主人公にほとんど何のとりえもないのに、何故だかめっちゃモテる!というタイプ。このタイプは私は苦手なのでよく知らないのですが、『IS』なんかは典型じゃないかと思います。
(ii)ベタ甘…最初から相思相愛でイチャイチャしているだけのタイプ。典型例は『別冊図書館戦争』とか。

この二つはこちらに分類することにしました。

②日常系
これは大雑把ですが、まあいいやと。例をたくさん挙げるので、それで感じをつかんでもらえればと思います。例は、『けいおん!』『らきすた』『あずまんが大王』『よつばと!』『GJ部』『マリア様がみてる』など。

狂言回し
これはどういう言い回しにしようか迷ったのですが、まあこれでいいだろうと。主人公が明確に存在するのですが、主人公についての話じゃない。なぜここに分類したかというと、主人公が話の中心にいないため、「主人公が周囲で起こる出来事から受けた感情の変化に一緒に移入して楽しむ」からです。例は『付喪堂骨董店』『旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。』など。

④コメディ(笑える)
なんで括弧で無粋な注意書きをしたかというと、一般的なコメディの定義とは異なるからです。単純にここでは、「いかに笑えるか」ということのみに絞って考えます。例は『化物語』(他の要素も強いですが、これは外せない)、『僕は友達が少ない』、『やはり俺の青春ラブコメは間違っている』など。

⑤悲劇(泣ける)
これも④同様、いかに泣けるかのみです。加えて言うなら自動的に流れてしまうタイプの「泣ける」です。例は『ソードアートオンライン7 マザーズ・ロザリオ』『とある飛空士の恋歌4』『フランダースの犬』(ぇ

⑥因果応報
これは自然法則といえばそうなので、要素として入れるか迷ったのですが……そうとしか言いようのない分類の話があるなあと思ったので。例は、『リア王』『嵐が丘』など。

④、⑤、⑥についてはここに分類していいか微妙なところがあるので、もう少しうまい分類を考えたいと思います。


・擬似的な拡大欲求の充足

まだエンタメの半分か……気長にいきましょう。

①無双系
とにかく主人公が強い。超強い。最強の主人公に移入することで自己の拡大を擬似的に体験する、王道的な手法。例は『ソードアート・オンライン』『魔法科高校の劣等生』『カンピオーネ!』『氷結境界のエデン』など。この要素は多かれ少なかれかなりの割合の物語に含まれると思います。

②ビルドゥングス・ロマン
あれ、さっき大分類で成長という文字を見たような…?と思った人は正解です。しかしアレは読者自身の成長であって、物語の主人公が成長するだけで、読者になんの成長ももたらさない場合はここに分類されます。この微妙な問題については後述します。例は…いっぱい。『アクセル・ワールド』『偽りのドラグーン』『マリア様がみてる』など。

③恋愛モノ(b)
さっきも恋愛モノあったじゃん、ということで、今回もまた小分類があります。

(i)純愛……恋愛を成就させるまでに苦労や成長を必要とするタイプ。例は、『東雲侑子は短編小説をあいしている』など。
(ii)ハーレム(能動系)……主人公がヒロインをバンバン救っていくうちに嫁が増えていくパターン。例は、『ソードアート・オンライン』『とある魔術の禁書目録』『ヒカルが地球にいたころ』など。

④ミステリ
説明不要の極みですが、ミステリの面白さはどこかと考えたとき、解決する探偵に移入して楽しむのと、謎が解けてあたかも拡大したかのように感じることから、ここにいいれました。例はラノベだとあんまりないんですが、強いて言えば『クビキリサイクル』『文学少女シリーズ』『トリックスター』など。

セカイ系
分類として無双系と被るんじゃないの?とも思いましたが、意外とそうでもない作品がたくさんあったので。社会という中間層が消失して、個人が直接世界に影響を及ぼせてしまう類型のことです。例は『新世紀エヴァンゲリオン』『最終兵器彼女』など。ラノベじゃねえ。


ようやくエンタメの小分類解説が終わりました。

これらは相対的でなら、ある程度評価が可能だと思っています。まあ笑いのツボなんて人それぞれじゃんとか言われるともうしらねーよって話なんですが。その辺は各自で判断しましょう。

ここまでのエンタメ部分での使い方の一例を紹介します。

ソードアート・オンライン

1-⑥因果応報★★★
2-①無双系★★★★☆
2-②ビルドゥングス・ロマン★★★★☆
2-③恋愛モノ(b)
(i)純愛★★★★
(ii)ハーレム(能動系)★★★★
2-④ミステリ★★☆

(これだけ複数の項目で高い水準を取っていることに加え、読者自身における自己拡大要素が極めて高いため、私としては文句なく傑作としているわけですが……)

こんな感じでしょうか。あえて項目の多いものを引き合いに出しています。

こうしてみると、SAOは極めて自己拡大的な要素が強い作品であることが伺えます。様々な要素を持っているため、一見エンタメとしては万能に感じますが、ゆるふわ日常系とか、ベタ甘とかハーレムとか好きな人に勧める際には注意が必要かもしれません。

最後に相対的な判断が不可能な「自己拡大欲求」について触れます。こっちは一瞬で終わる…はず。


・成長とは

この部分を拡大した図を張ります。

こちら側はシンプルですね。まあ細分化していったらキリがないからでもあるんですが。

こちらは物語の読者自身が成長する、という意味での成長になります。詳しくは述べませんが、今のところこの2分類で足りるのではないかと思っています。

それぞれ言葉のとおりなので特に言うべきことはないのですが、一点だけ注意があります。

これらは個人の持つ知識や、年齢など、状態によって感じる度合いが著しく異なる可能性があるという点です。

大人が読んでも面白い絵本、のようなものが理想かもしれませんが、大抵そううまくはいきません。

ゆえに、深い内容であっても全く響かないとか、逆に基礎的な部分でもものすごい影響を受けて面白く感じるとか、そういうことがありえます。読書の難しさの本質はここではないかと思うほどです。

そのため、この部分の評価のやり方としては、どういうテーマをどの程度掘り下げているのか、またはどういう知識を扱っているのか、そういう点をはっきりさせる方法が一番有効ではないかと思います。

それで興味を持ったら触れてみればいいのではないでしょうか。

この分類は、むしろエンタメと比較して、比重がどっちにあるか、とかその辺に注目するために使う方が多いかもしれません。

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どうでしょう。一応もれなく、ダブりなく、を目指したつもりです。やはりまだまだ考える余地があるとは思いますが、頭の中で考えるより、一度書いてしまった方がいいかと思いまして。

願わくばこれをツールとして、作品を扱うコミュニケーションが円滑になる、とかマッチングが取りやすくなる、などステキな物語ライフを。