『ソードアートオンライン』一巻 アインクラッド編のラストについて考える
- 作者: 川原礫,abec
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2009/04/10
- メディア: 文庫
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※当然ですが重大なネタバレをしています。
・一応回答があるらしい
アインクラッド編のラストについて、私の周りでもやはり「ロジカルでない」「理不尽だ」等々の声が多い。私も今までは説明を特に考えておらず、どちらかというとテーマ優先で説明は放棄されたものかと考えていた。個人的にそこまで興味もなかった。
しかし作者の方の「疑問について、理由を推測する材料は作中にいろいろ示されている」と、どうやら推測することが可能であるという旨の発言がなされた。
またこのラストを理由に、この話を大したことないご都合主義の話だと切って捨てられてはたまらない、ということもある。
とは言っても、こういった話になると、どこぞで洗いざらい検証してくれるとは思うので、ここでは完全なものを目指すというより、自分なりに本から情報を拾って考えることをしてみたい。
よって誤答である可能性の方が高いだろうが、気にしないで進めて行く。
・設問
まずは状況を整理して、何が問題だったのかを考える。
ざっと流れを書くと、
・ヒースクリフがキリト以外の全員をマヒさせ、行動不能に。その後キリトとヒースクリフがデュエル
↓
・キリトが負けそうになるが、問1.マヒ状態だったはずのアスナがキリトを庇いHP0に、その後爆散
↓
・キリトHP0になるも、問2.その後頑張って行動してヒースクリフを倒す
↓
・ゲームクリア後、問3.キリトとアスナが死んでおらず、アインクラッドを俯瞰できる場所で目覚める
↓
・問4.ゲーム終了後、死なずに目覚める
問題の部分は赤くしている。だいたいこんなところだろう。
強いて言えば、アスナのレイピアをキリトが装備できるのか?などはあるのだろうが……まあ、できることにする。
・自明な回答 問3,4
他に明確に答えが示されている問いを先に答えておくとするなら、問3が可能である。
P.335において、ヒースクリフが、「(前略)君たちとは――最後に少しだけ話をしたくて、この時間を作らせてもらった」と言っている。
この台詞は、彼らだけを切り離してこの空間に連れてきた、という意味にも取れる。しかしそうするためには、明らかに死んでから10秒以上たったアスナの脳を焼き切らないようにしなければならず、どちらの意味でもあまり変わりはない。キリトは死んでから10秒経ってない状態でクリアされたように見えるのでなおさら自明である。
つまりキリトとアスナはHPが0になってもカーディナルが殺人を実行しないよう、ヒースクリフからの設定があったものと思われる。
問4も「ゲームクリアおめでとう」という、ヒースクリフの台詞によって説明できないこともない。というかどこかで説明があったような、なかったような。
よってこの二つは今回特に取り上げない。問題は問1と2である。これは仮説として幾通りか検討してみたい。
・仮説1.システムの中で何とかやりくりした説
正直可能性としては低いが、一応検討する。
まず問1.アスナがマヒなのに動けた というのを検討する。
ラストのヒースクリフの周りでは、マヒで誰も動けないような描写だった。しかしマヒというのは全身が動かなくなるわけではなく、左手は動くらしいことがクラディール戦において見られる。
動く左手でスクライドよろしくジャンプしてキリトさんとヒースクリフの間に割り込めばマヒ状態でも動ける……かもしれない。
問2.キリトがHP0で動けたのは、元からシステム上可能だったという説が立てられないこともないはず。そして時間が引き延ばされて、爆散する直前までにヒースクリフを貫けばいい。
……まあ、ないだろう。ただ書いていない要素をつなぎ合わせると言っていえないことはないように見える。
また、ヒースクリフの台詞「(前略)そして私は……私の世界の法則をも超えるものを見ることができた……」という発言があるので、ルールをブレイクしていなければならない。この点からも回答としてふさわしくない。
・仮説2.二人が一時的にGM扱いだった可能性
この説は一番妄想的である。理屈にはなっていないが、ご容赦頂きたい。
まずシステムの根幹たるカーディナルについて考えよう。
2巻にはカーディナルは自立型のシステムで、二つのコアが互いのエラー訂正を行い、という記述がある。要するにカーディナルはバグる可能性がある。まずこれを一点考えておきたい。
またキリトが《デモニッシュ・サーヴァント》と対戦していたとき、スイッチするとAIが対応しきれずラグる、という描写がある。
このことから私は、「カーディナルさんがバグるんだったら、全部バグでよくね?」と考えた。しかしバグるためにはそれ相応の理由付けが必要であると考えて、これを却下した。
次にバグる理由について「気合で」と思ったが、特に理由を説明していないのと変わらないような気がした。
そこで、ここからひどい憶測を混ぜる。
まず問3において、ヒースクリフが「キリトとアスナはHPが0になっても死なない状態にしていた」ことを前提とする。
さて、死なない状態と一口に言うが、そんな設定が簡単にできるものだろうか。
脳を焼き切る設定にON/OFFがあればいいが、それを二人だけに適用するというのは少し面倒のような気はしないだろうか。
それより、二人のアカウントを一時的にGM又はそれに準ずる扱いにしてしまうのが楽ではないだろうか。ヒースクリフは特殊なアカウントだったが、万一死んだとして自分の脳も焼き切る設定にはしていなかっただろう。ただしヒースクリフの台詞から「マヒから回復する手段はなかった」ので、そんなにコマンドがあるような身分ではなかったのだろう。
そこで、先ほどカーディナルについて確認したことについて考える。
カーディナルはバグる。
GM的なものがマヒ状態になっている(本来のGMであれば状態異常にかかるはずもないが、一応可能である身分だとしよう)状態で、なおかつ凄まじい勢いで動こうとしているとする。恐らく、そんなケースはカーディナルは経験したことがない。
その特殊な身分であるアカウントの意志によって、カーディナルはバグったのだのではないだろうか。すなわち、マヒよりアスナの行動を許可することを優先したのだ。
ここで問題となるのはその設定をしたタイミングである。この仮説を押し進めるためには、ヒースクリフがアスナの設定を変えたのは、アスナがルールを破って動けるようになる前でなければならない。
しかしそのためにはアスナがルールを破って動く前に、ヒースクリフが特筆してアスナを死なないようにしておかなければならない。
ではなぜそんなことをしたか?というと、ヒースクリフはあらかじめ自分が死ぬ可能性を考慮しており、その場合この二人を話し相手として呼ぶ、ということを意識していたことが考えられる。血盟騎士団の副団長に任命していたのは伊達ではなかったのだろう。
キリトについても同様である。死んで爆散する間際のキリトの意志によって、HPが0であるはずのアカウントに行動許可を出してしまったのだ。キリトを呼ぶ理由についても、秘密に気づいた存在として、事前に設定をしていてもおかしくない。
この説が非常に妄想的で、論理として説得力がないにも関らず記述した理由として、先に挙げたヒースクリフの台詞「(前略)そして私は……私の世界の法則をも超えるものを見ることができた……」という台詞が全うできるからである。
確かにアカウントを与えたせいではある。しかし結局意志の力によってシステムを超えたのだ、と。
まあ、何とも反応しづらい説である。ので、最後に多分正解であるが今はまだ話せない説を挙げる。
・仮説3.まだ言えないナニかの理由による
作者の方の発言を見るに、多分これなのは分かっている。分かっているのだが、これはどう考えても後付けの理論なので、個人的には好ましくない。確かにこれは仮説2を包含しうるというか、最終的には仮説3に帰着できるのかもしれないが、そうと明言したくはないのだ。
そんなわけで何とか1、2巻の内容程度で説明できるようにしたかった。その苦肉の策が仮説2である。
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以上、アインクラッド編に対し、問いを確認し、3つの仮設を立てて考えました。
実はこれとは全く異なる「論理的に完璧な正答」が、既にどこかにあるのかもしれません。しかし自分なりに考えて答えを出したかったので、一応仮説2という説明とも言いがたい説明がつけられたことについては満足しています。
誰かしらの納得にはつながらないとしても、考えるきっかけにでもなれば幸いです。